タイトル:紅巾乱戦勃発 16

但し、この『口実』は3年後に生きるのであり、この時点では、その要素はまだ出ていない時期に当たる為に、一美は立ち上がろうとはしなかった。だから、もう少し様子を見るべきではないのか、と注意を促した事に他ならない。
しかし、中央では、『紅巾』軍の数が増えていて、監獄を破った囚人たちがこぞって、入隊し風紀はさらに荒れ果てていたのである。それによって、『紅巾』軍はさらに信用を失い。
終息するのは間近に見えた。所が、そううまく事が運べば、こんな形で書き記すとは言えないだろう。司州の統率兵が、事もあろうに反乱軍の支援に回ったのである。
それが、多くの人々を勇気づける事になった。故に、反乱はさらに拡大したことになったのである。その多くは、政治体制に反発する中華族の兵士たちであって、彼らが、その反乱軍に加わったことで、兵力増強と同時に、富貴が保たれるという結果をもたらしたのである。それによって、反乱軍は息を吹き返したのである。
一方、朝廷は、この事態に驚いた。なぜなら、今まで、近衛兵として、職を与えている部隊が、一斉に離反することなどありえなかったのである。
それを、偽りだと信じて、朝廷は対策を相次いで出していった。それで、新しく軍隊を造り、それを反乱軍の討伐に充てる事にした。それは、この時代の流れが、動乱に向いていた事を意味していたに他ならない。
そう言った情報を、一美たちは深刻な顔をして聞いていた。
「どうやら、この事態は予期できなかったと言った方が良いと私は考えるのですが。」
穂積は、その情報を聞いて、不安を口にするしかなかった。しかし、どのような状況を、考えるのかは定かではないが、この反乱がまだ続くと、一美たちは考えていた。
しかし、どうもこれはおかしな話だと、考えていたのは、一美自身である。
「ある意味で、これは、予測できなかった事かもしれないが、実際の『大波』政府の政治的な、部分も働いている可能性が高い。これは、中華族の将兵たちが、反乱を指導している可能性は高い。」
一美たちが、分析していた事は当たっていた。では、その頃、当地では…。

実態として、風紀の乱れはおさまっていた。しかし、どう言う事をするべきか、そして、どう言う戦略を立てるのが寛容か、それを考えていた。これからどの場所に勢力を広げるのか。彼らの問題と言えば、それであった。
「しかし、大将のお方であるあなたが、このような状況では、兵士の士気は上がりませぬ。」
忠告したのは、『紅巾』軍に所属していた軍師野島義之で、それを、聞き流していたのは、大将の只野武敏であった。
「しかし、増えたのはいいが、この軍をどう捌くか、それが問題なのよ。」
確かに、増えに増えたが、これはどうするのかは全く、想像もつかない。だから、この状態で、放置するのは問題で、早く役職に就かせるのが妥当だと、考えていた。
「よし、それでは、君たちに任せる。それでいいかな?」
それにおいて、責任放棄ともとれる発言をして、只野武敏は新しい軍隊の整備を、部下たちに命じた。しかし、野島義之は、これに危機感を抱いていた。それは、大将の器量が武敏ではあまりにも低く、リーダーシップを発揮できる人材を、新たに招いて、この事態を脱するべきだと、彼は考えているのである。
そこで、ある宴会を開けば、と考えていた。そこで、…と考えていた。その内容と言うと、『史記』にこんな話が出てくる。
この年から遡る事5000年も前、呉王になる前の王子闔閭は、君主(王)がこのまま王であり続けるなら、国家は存亡の危機に立たされると、危惧していた。本当の所は、自分が王となって、この国から江南一帯を支配しようと言う目論見があった。
そこで、宴会を開き、メインディッシュと言える魚料理(川魚の可能性もあるが、海の魚だった可能性もある)を出し、中を開かせた瞬間、そこにあった短剣で、王を刺殺し、攻め込んだ軍によって、そこにいた重臣たちごと殺害したと言う(『史記』「呉世家」より)。
この話は、クーデターと言う形で起こしたものだが、これが、呉の国力が急浮上する引き金となった事は事実であった。
それを引き金に、『紅巾』軍を活性化させると言う、それが義之の考えであった。

そして、当日、P.W.1610年5月25日、もうそろそろ、6月まで1週間を切った時である。突如であるが、宴会が開かれた。それが何を示すか、大将である武敏も分からなかった。しかし、これから恐ろしい事が起きるとは、誰にも想像はできなかった。これから起こるのは、大将の交代を促す儀式だと言う事だからだ。もし反対するなら、その場で殺す事も出来る。それが、この目的だったのである。
「さあさあ、今日は飲んでください。食べてください。」
これは、危険だと思った家臣もいたが、そのまま押しとどめられてしまい。そのまま、飲み食いに付き合わされていた。しかし、その中で、多くの将兵たちは、酒の酔いが回り始めてしまい。そのまま倒れ伏した。
そして、武敏だけが、ただ一人酔わなかった。どうしてか、分からないまま武敏は、盃に手をかけた。その時、
「殿は、どうされるのですか?」
それを聞いて、彼は動揺していた。何を聞いているのかと、彼は思ったからである。それに義之はこう答えた。
「大将の位を、別の方に譲ってあげてください。そうでなければ、この軍隊の風紀や、戦闘意識は低下する一途をたどると危惧しております!」
だから、と武敏は言いかけたが、
「それゆえ、大将を代えて、託していただける軍隊を、見つけられるのなら、この時点で、我々は天下に生き残る事が出来るでしょう。故に、大将を変える事で、我々の目的を、達成できると言うのではないでしょうか?」
と激しく詰め寄った。
「確かに、それは、そなたの言うとおりだが、私は、この兵を立ち上げたのだ。それをいまさら、代えるわけには…。」
と武敏は、弱々しく答えた。
所が、それに有無を言わせず。杯の酒を飲ませた。杯のある部分に毒を含ませていた。神経毒の一種、テトラドトキシンが武敏の唇に含まれ、その毒を吸収した。
思いっきりむせたが、もう手遅れであった。フグの毒と言えるこの毒物は、劇薬であり、青酸化合物の代表格ともいえる青酸カリの数十倍にも匹敵する猛毒が、体中に回っていた。
そのまま、むせたかと思うと、口から血を吐き苦しみだした。
「よし、義之~~~~~~~~!」
そのまま、回ったまま、武敏は躯と化してしまった。それを義之は見つつも、冷静に新しい大将を招き入れた。中華族で、近衛兵を統率した司令隊長汪叙経(読み:おうじょけい)と言う人物に大将を依頼し、本人もこれを受け入れた。
それによって、反乱軍は依り、気風と戦略が整理されて行き、その中で、無法者も礼儀正しく引き締まった姿に変わった。この出来事以降、義之は軍師として「斉」の土地に根拠地を定め、そのまま攻撃をするようにと、汪に進言し、その進言が受け入れられ、そのまま約10年間も、『大波』と戦い続ける事になるのである。

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