タイトル:『広州軍』北田一美 02

それで、一美はそのまま、ホテルに帰ってきた。それが、他の家臣であるクリフ、優香には帰りが遅くなった理由が分からない。
「どうしたのですか、遅かったではありませぬか?」
確かに遅かった。事情が事情だから、
「実はその事で、全員に話をしておきたい。中心メンバーを集めてくれないか?」
一美がそう言うと、商団員を集めるために、クリフと優香は昭代と仁部友姉妹を呼び、先ほどの事を伝えた。
「それは、どう言う事ですか?」
一美の話に、驚いているのは、一美が会議に入っていて、そこで発言し、そして、州の決定に深く関与した事についてであった。
それで、一美は、
「実は、偶然かもしれないが、智光殿にお会いして、話を聞いてみる所から始まった。」
その話に一同は、唾ないし、空気を飲み込むかのように、緊張した顔をする。
「それで、議論が始まったのだが、これがなかなかかみ合わない。ゆえに、どうしようか迷ったのだが、結局自分の意見を言うのが手っ取り早いと思ってね。それで、同じ中華族で連帯する事こそ大切だと、私は言ったわけで、それに彼らは、私の話が新鮮だったらしく、口をあけたまま答えが出なかったということだ。」
それで、どうなったのか。
「それで、次の日に彼らから招待されたわけで、申し訳ない! 逗留期日を1日延ばすことになってしまった。チベットとの交渉は後になるが、よいか?」
全員はそういう事情があった事を悟り、頷いていた。
「それで、雲南州と好を通じることができれば、我々はたくさんの益を得ることができると考えております。」
昭代は、そのように言った。
「私も、この一件で好が通じれば、我々は同士を得た事になると考えてもおかしくありません。しかも、彼らは、『大波』本国政府の弱みを握る立場にある事から、彼らの情報の面で協力すれば、多くの中華門族が立ち上がった時に、その弱みを利用して、政府に圧力をかけることは可能になると思います。」
確かに、それを言えばそうなる。だが、一美は、
「それだけではない、もし、国家を造る事になれば、彼らの今までためてきた知識などが生かされる。そのほかには、彼らは中華の民に対して、どう言った視点で扱えばよいかを常に考えている。事も忘れてはならない。つまり、行政に携わった人間としては、貴重かもしれないのだ。しかも、我々と似た世代に位置する事も利点がある。」
と言葉を切り、他のものたちの反応を待った。
「しかし、どうして、国造りにも彼らの知識は生かされるのですか?」
とクリフは聞く。
「まず、この戦乱が起きた場合、どの場所から復興するか、それを知るのは、彼らと言う事になる。どこが重要なのかを彼らは分かっている。それ以外にも、法律に対しても彼らは、『大波』の法律を拝見できる立場にある。だからこそ、彼らの存在は必要だと言う事だ。」
一美は、その利点を話したのである。
「それは分かってきました。つまり、彼らと手をつなぐことで、我々は大きな力を得られると言う事ですか?」
確かに、それは言えるだろうが、今は、その時ではないと一美は考えていた。所で、そのほかにも宗弘たちには興味のある事がありそうで、
「そのほかにも、情報を集められるいい機会だし、私は、行こうと思う。どうかね?」
そう言われて、頷いている人物は多かった。確かに、今、この好機を逃すわけにはいかない。だから、一美はこの招待を受けてみようと考えていた。
宗弘が翌朝に、一美の投宿するホテルに来ていた。
「お頼み申したい。北田一美様は投宿なされていると、お聞きしているのだが、お願いしたい。」
宗弘は、ホテルの仲居に尋ねていた。そう言えば、どこの部屋に泊っていたのか、それを聞きたかったのである。
「そのお方は、209号室に投宿されております。今から案内しますよ。」
仲居の案内で、部屋に連れて行ってもらった。
「ここです。」
案内されてきた部屋に、宗弘は、ドアをノックして入る事にした。

一美は、ドアの叩く音が、気になって、ドアノブに手をかけた。そこには、宗弘の姿があった。どうしてなのか分からないまま、一美は、宗弘を部屋の中に通した。部下たちも自然と集まってきている。
「昨日の一件で、私たちは、多くの人々の心を知る事が出来たような気がします。」
とお礼を述べた。一美のあの意見の事に感謝の意を表したと言うものだった。
「とんでもございませぬ。勝手に参加して、勝手な意見を言ってしまってから、後悔をしてしまいました。」
と謙遜してしまい。
「そんなご謙遜をなさるとは、あなたは、控えめな性格をしておられるのですね。」
と宗弘に誤解されたのである。一美は、突然の訪問に、少々混乱していて、言葉がうまく回らなかった。
「あなたの、意外な一面が見えましたので、それもそれで楽しいと思いますよ。」
一美は、顔に赤みが差したようにはにかんだ。
「少女らしいですね。」
宗弘の言葉が、まるで、何かを癒すような声になって、一美の耳に届く。
「それで、何かあってここに来たのですか?」
一美は何かがあってここに来たのではないかと思って、聞いてみた。それに対して、宗弘は、
「実は、広州、広西、福州に書状が送られてきていると言う話を聞いたのですが…。」
一美の顔が、急に変わり、目が閃光を放つほど鋭くなっていた。一瞬何が起きたのか宗弘は、驚きはしたものの、一美は、
「紅巾軍からの書状の事ですよね?」
と口にしていた。
「それですが、我々も、その書状を破り、破棄したのです。しかし、あれに意味はあるのでしょうか?」
それを聞いて、一美は同じものが、全国各州に出回っている事を感じ取った。つまり、紅巾軍は同士を集めるために、諸州に声をかけている。そこで味方になる者と、的になるものをより分けていると言う事になる。つまり、踏み絵を踏ませたのではないか、
「あれは、『踏み絵』かもしれませぬ。」
「ふ、『踏み絵』?」
驚いて、一美の顔を宗弘はじっと見てしまった。
「そうです。おそらく、『踏み絵』でしょう。しかし、我々にとっては、復興すると言う意思を、つぶしたという印象を与えたのかもしれませぬが、『紅巾』軍が立ったとしても、思想の統一がなされない状況の中では、自然に崩壊する可能性が高いと考えられます。だから、私は、この状況の中で、付き合わないという選択をしたのが、正しかったと考えております。」
と答えた。確かに、どこの馬の骨か分からない集団に付くよりは、新たな道を探し、多くの軍と連携する事が求められると考えていたので、一美は、宗弘の選択が正しいと感じたのである。
だからと言って、独自の道を探すのは、まさに苦難の連続であるが、その分、一美は多くの仲間に支えられて、この状況を乗り切ろうとしていた。それは、宗弘の祖先がたどった道に似たものだったのかもしれない。

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