タイトル:「広州軍」北田一美 06

その頃、広州では、その知らせが届くと即座に、援軍の派遣を決定し、そのほかにも援助物資を送る形でカモフラージュさせて、輸送すると言うものである。
それが果たしてうまくいくかどうかは、商団員腕に掛っているのだが、この方針に対して、幸が穂積に対して、
「おそらくですが、本国政府はこの事に、敏感になっております。もし兵士を送るとなると、それを口実に攻めてくる事もあり得ますよ。」
確かに、幸の発言には一理ある。まさしく、表裏を間違えてしまうと、大変な事になってしまうのである。だから、彼らは、その点を理解しての穂積の決断だったのである。
そこで、紀子は幸にその代表を務めるようにと、命を下したのである。できれば、自分で行ってみなさいと言う、紀子のメッセージでもあった。それに伴い、紀子も同行すると言う事が決まったので、幸と紀子は、福州に向かう援軍の大将として、派遣される事が決まったのである。もちろん紀子は、参謀として派遣される事になったのである。
それで、その日のうちに、援軍の招集の手続きを広州の州政府に要請し、それを終えると、軍船を整えて、福州に向かう事にした。
軍船は合計で10隻。中型空母「A級」と呼ばれるようになる、2本の直方体を、真中の部分にて、立方体で組み合わせた船が使用されていた。そこに、多くの兵士たちと、ロボットが搬送されていたのである。
これから長い旅に出るものたちにとってみれば、これから行く所がどう言ったところか、全く分かっていない。
しかし、行くからには、どこに行くかは通知しておくべきだと、こもごも話す兵士たちの姿があった。
「しかし、福州が先に動いていると言う事は、『紅巾』軍は真っ先に、福州を狙うと言う事になるのでしょうか?」
幸は、不安を述べた。
「確かに、そうだろうと思いますが、彼らにとっては知られてしまうのは、大変な事になってしまう。だから私は、この事態で、大きくなる火事に油を注ぐ事になりそうです。」
確かに、これはそうなりそうである。
「だから、私もこの作戦に、少し、無理をしていると言う事にはならないかなと思うのですが。」
それはそうだろう。だが、やらなければならない。そう思いつつ、幸は、福州に向けての準備を開始した。
まず手始めに、部隊編成に因る隊長級武将の選定である。今回の大役は、幸と紀子に任せたのである。故に、この後になって、その決断が、一美たちの戦略を描く上で、重要なパートナーとなるとは、これは穂積などにはまだ、知らない事であった。

その事を知っていた一美は、穂積の考えを理解して、その動きを見守った。しかし、事態は多くの人を動かしているのは明白である。それが、本国政府にとっては、危険行為に等しいとみている。だからと言って、彼らとて『紅巾』軍の掃討に躍起になっているから、これでは、その他の地域に飛び火したなら、取り返しがつかない。
だから、ここは目をつぶると言う事を選択するのが賢明であったのである。それを知っている為に、宗弘は、この決断ができたのかもしれないと、一美は考えていた。
「何を考えているのですか?」
昭代が、一美に話しかけていた。一美の考える姿が、今後を決める大事な事に見えてならなかった。
「いや、これからの事を考えていた。それが、今の状況を整理すると、『紅巾』軍は、我々に対して、『従う』か『戦を仕掛ける』かのどちらかを選択せよと、言ってきておる。だからと考えて、『はいはい、そうですか』とは言えない。だから、迷っているのだよ。どちらにしても、我民族の歩む道は決して平坦ではない。だが、それに関して、どう言う風な答えが出るかも未知数だ。」
と言うが、それが、どこまで進んでいるのか分からないと言う所も、また分からない部分かもしれない。
「しかし、実際に一美様はどこまで、見通しているのでしょうか?」
少し、意味のわからない事を、口にした。
「時代のか、それとも、政治かどちらの事を言いたいのかな?」
当然の事ながら、一美は聞いてくる。
「前者、後者ともです。」
と昭代は答えた。つまり、どちらにしても聞きたかったのかもしれない。
「まず、時代は、これから、大きく動くかもしれない。例えば、我々がその軸に立つかもしれない。後者も同じ事が言える。だが、後者の場合は、少々時間がかかってしまう。そう思える。」
と言う事は、政治的に言えば、まだまだ立場が弱いと言う事を示していたのである。だからと言って、政治的な関係を高くしないといけないのである。
だからこそ、一美は、その為には如何にすればよいのかを、探すために、人々に尋ねているのだ。そして、彼女自身の考え方と、他の地域にすむ領主の考え方、政治的なもの等を学ぼうとしていた。
それが、雲南州、広西州など地域などに因って異なる人々の生活などに触れる事が出来、そしてその人々との連携を図る。それが、一美の果たしたい目的だった。今回は、少なくとも半分は果たした、と一美は考えた。

その頃、福州では来るべき戦に備えて、兵糧を貯める準備が始まっており、その中で、援軍に関する物事が決められているようである。
それはいいものの、本国政府は、その話で右往左往していると言った報告があった。
「それより、本国政府はこの事態をどのようにとらえているのでしょうか?」
と高志は、軍師の孫嬪に尋ねた。
孫嬪は、
「おそらく、攻めかかると考えているかもしれません。ただ、『紅巾』軍の動きが微妙で、その動きいかんによっては、我々の行為はお咎めに値する、と言われてしまうかもしれません。」
それはそうだが、勇策たちは、どのように判断しているのか、それが、軍師の孫嬪にとっては気になる所である。
しかも、孫嬪はこの事態がもっと悪方向に、行ってしまうのではないか、と言った危惧を持っていた事にあった。なぜなら、上海を抑えていない中で、その活路を広州に向けようとする『紅巾』軍、それに対して、何も対策を示さない『大波』本国政府、両者の板挟みに、福州などを含めた4州があって、両者は、あの手この手で、誘いをかけて仲間に引き入れようとしている。
それに対して、独自路線を行こうとする人々は、少ない方に当たるのだから、一美たちの孤立は避けようがない。だから、一美たちを何とかしても支援するためには、彼女を支援する、人間を多くしないといけないのであった。
つまり、独自路線を持っている一美にとっては、今後は非常に厳しい道を歩む事になると、孫嬪は考えるしかなかった。
それにおいて、自分も苦労する事になるのは明白であり、孫嬪はその中で、自分たちがいかなる成長を遂げていくのかを気にしていた。
だから、一美が今後苦労すると言う事は、これからの一美の性格や、考え方を形成する上で、影響を与えるかもしれない。
(おそらくだが、私も、勇策様と共に、戦乱に生きなければならないのかもしれない。その時は、私の体が、どうなろうとも、新しい世の中を造る為の義戦―正義の戦争―として、考える事になるのかもしれない。だが、はたして、今の『紅巾』軍に、そのような考え方はあるのだろうか?)
と考えていた。
つまり、今の『紅巾』軍は、領土を拡大し、自分たちの私欲に任せて戦っているのではないのか、それが、如何に正しい事を言っても、人々の理解を得られないのではないのかと、孫嬪は考えるようになっていた。

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