タイトル:「広州軍」北田一美 14

その後であるが、一美は他の政治家にも、あって話を聞いていた。それ以外にも、経済団体を運営する人材からも、多くの話を聞いていたのである。カレンダーは8月に入って、異常な暑さに少し慣れ始めていたころだった。
この日は8月の4日に入っている。そして、多くの見識者たちの意見をまとめていた。今回は報告書を書くために立ち上げたものと言ってもよいものだろう。そして、一美は、それをもとにして、多くの国々が、どう言った方向に導かれていて、これを中華地域に、どうフィードバックさせるのか、それが問題となるはずである。そして、そのフィードバックされた物事をどう生かすか、それが問題にならないだろうかとも言えるが、一美は、チベットで精力的に活動していた。
そんな中に、ある知らせが入った。
「『大波』政府の追討部隊が、組織されたとの情報…、か。」
その目的は『紅巾』軍の掃討作戦にありそうだと、一美は見ていた。
それに、今の状況を考えてみると、多くの州が、何も決めていないように見えてしまう。それに、比べて、行動している彼女たちは奇異な存在で見られていたのかもしれない。
それゆえ、彼女たちは、その事を気にしながらも、この後の事を考えて、何をするべきなのかを探していたのである。
それから、一美たちは、目的を達成するまで、チベットに残るつもりだったのである。しかし、国元の状況を報告してくれた穂積は、どうやら、一美の帰還を期待していたらしい。手紙でこんな事を言っていたらしい。
〈拝啓
ますます、事情は厳しくなりつつあり、平原の状況はますます、混乱にあるがごとき模様です。
姉上も、いち早くお帰りになっていただきたく、筆をとりましたる段、お許しいただきたく、言上仕ります。また、父上も首を長くしてお待ちでございます故、この事を重々承知の上で、よろしくお願い申し上げます。
敬具〉
まさしく、姉を想う心が、にじみ出ているような気がして、一美は思わず苦笑するしかなかった。
その頃、広西にいた穂積は、伊織たちと話し合っていた。そこには宗弘、勇策の姿がある。そこで、防衛に関する対策が話し合われていた。それは、この広西のみならず、4州を如何にして守りきるか、と言う事である。
これについて、色々な意見が出てきた。それを纏める役目を持っていた穂積は、さまざまな意見を、一つ一つ聞いては纏める役目を負ったのである。
しかし、さまざまな意見が出てきて、それを処理するのに時間がかかっていた。さらに、穂積の知らない所で、大変な事態が起きた。

それは、一美の滞在しているチベットにて、1人の人物が訪ねてきた事にある。一美は、それに思わず目を疑ったのである。
「あるお方から、あなたの名前をお聞きしまして、尋ねたいと思っておりました。」
その女性は、その様に事を述べて、一美に会いたいと言う旨を述べた。
「中華をどう考えているのか、それについてお話し願いたいのです。」
これに、受付の女性は、どう対応していればよいのか、戸惑ってしまった。何を話したいのか、まったくつかめなかったのである。
「誰をお尋ねですか?」
と聞いて、その女性は、
「北田一美様を…。」
と答えた。さて、この女性は一体誰なのか、それが分からないまま、一美の部屋に通されたのである。そして、一美は、何者かの気配を感じて、扉の方角に目を向けた。
「どなたさまでしょうか?」
声をかけた。
「一美様は、この部屋にいらっしゃられるのでしょうか?」
一美は、この声に聞き覚えがあった。誰であろうか。
「樋賦琿上皇陛下!」
一美は、すぐに扉を開けて、彼女を中に通し、礼を尽して迎えた。
「これは、わざわざ、お越しいただきまして、言葉の尽くしようがございませぬ。」
一美は思わず、平伏するしかなかった。それに賦軍は、
「もうすべての肩書は外れておりますので、そんなに、例を尽さなくても…。」
と言って、気を使わないようにと伝えた。一美は、それを指摘されて、思わず顔を赤くした。まさに、顔から火が出たようである。
「それより、チベットにいるのは、どう言う事でしょうか?」
と聞いてきた。
「実は、私も聞きたい事があって、ここに来たのです。私たちは、先祖の時代に築き上げてきた信頼の多くを失っており、我々の世代で、この国は潰れると危惧しております。それだけでないです。我々は中華族を冷遇してきたし、差別してきた。それだから、あなたに会って、その答えを聞きたかったのです。」
賦軍はそう言うと、一美の瞳を直視していた。
「私たちは、中華族を政治の主役として、今までの政教を混同する政治家を、排除しようと考えております。だから、私たちは、その後の政治について、多くの国家から学ぼうと考えているのです。それに、中華の人々は、今の政治に不満を持っております。『イスラム教徒スンナ派』を優遇するという政策は、それ以外の人々にとっては、苦痛の何物でもありません。それに、『シーア派』の人々の配慮もしないと言うのでは、『イスラム教徒』の中にも軋轢を生む可能性があると、私は考えてしまいます。」
一美は、そう答えた。賦軍も頷いて、
「確かに、そう言えます。私たちの先祖は、『イスラム教徒スンナ派』の出であり、イスラム商人の一人であった事から、イスラム教の教えを忠実に守りとおしておりました。また、商人であっても、利益を貪らないと言う精神でしたが、徐々に、中華族と交わる中で、政治にも手を出して、それに因ってここまで来たわけです。それを、断ち切るとなると長い時間をかけて、ほどかないとなりません。だからこそ、中華族の民たちの考え方を、中に入れなければならないと考えていたわけです。」
と答えたが、すぐに、
「多くの家臣は、利権が守れないとして、級に反対してしまい。私も、その反対を押しのけるほどの、力がありませんでした。それだから、『紅巾』軍が勢力を張るような事態が起きたのだと思えるのです。」
と沈んだ声で、一美に言った。
一美は、その言葉と、賦軍の表情に切なさを感じるしかなかった。
(それなら、皇帝の立場にいたのですから、強い指導力を発揮できたのではないのでしょうか?)
と質問しようとしていたが、その言葉を飲み込んで、別の答えを出した。
「しかし、私もどう言えばよいのか分からないのですが。この時代を動かすのは、1人の人物ではなく、多くの人々の志だと感じております。それは、私の家族もそうですが、私たちも、色々と国の政策に振り回されていて、どうしようもない所にきているのです。これを考えると、自分たちは、『紅巾』軍のようにはならないようにしよう、と考えております。しかも、しっかりとした芯を持つ事が大切だと、私は、考えております。」
と、それは、自分たちの人生は、自らで切り開くと言う事を、主張したものであった。それに賦軍は、一美をこれからの人々を率いる人材とみていた。

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