タイトル:「広州軍」北田一美 16

一美たちを乗せた船は、一路雲南を目指していた。しかし、急ぎの旅の為に、船の速度を上げて、一気に、雲南に向かっていた。すぐ隣は、全員の意見を聞いて、答えを出し、迎え入れた樋賦琿の姿があった。一美は、考えに従って、彼女を受け入れて、それぞれに書状を書き送った。まず、遠くの福州に、次の文書を書き送った。
〈拝啓
今回の一件に付き、勇策殿からの考えを求めたいと存じます。私は、樋賦琿についての判断ですが、受け入れる事にしました。
勇策殿は、どう考えておりまするが、コリア出身の人物たちからは、非難を浴びる可能性があります。
その事について、説明が必要でありまするが、時間をかけて説明していきたいと考えております。
敬具 北田一美記す也〉
そして次に、広西にも書状を書いていた。前と同じである。そしてその答えは、意外にも早く来たのである。
しかもメールで来ていたのである。
〈私の場合も、一美様と似たような事をしていたかもしれません。同じ考えに立っていたのだと思います。ただ、私の場合は、それについて、答えるのに苦労すると思いますが、私も家臣の者たちに説明してまいります。〉
と答えたのである。
つまり、勇策自身も同じ考え方をしていたのである。そのほかにも、広西の方も同じ考え方が、広まり始めたのである。それに対して、雲南に到着するまで一美たちは、話し合いをしていた。
「まず、この国の上皇を、私たちが抱えた事によって、政府は、非難をしてくる事はあると言えるでしょうか?」
確かに、昭代の疑問には一理ある。それに一美は、
「それは、私もそれを予想している。だからと言って、この時点で、『大波』と剣を交えるべきではなく、ここは自分たちを守るために、彼女を受け入れたのだから、当然のことながら、非難は避けられないと思う。ここは、耐え抜くしかない。」
一美は、覚悟を決めていた。この人を引き取ったのだから、それをする上で、自分は何とかして、その責任を負い、多くの人を巻き込んでしまった事を、後悔していたとしても、自分で招いた客人だから、彼女に対しては礼を尽くさねばならない、そう考えていた。
「もしそうだとしたら、我々の覚悟は決まりましたね。」
と優香は、腹をくくっていた。もう逃れられないと、考えるのであった。それだけでなく、これからの戦乱が起きかねない状況に、自分たちが置かれると言う事を、予期していたのかもしれない。樋賦琿が入ったと言う事で。

それに対して、広西では、樋賦琿を迎え入れた事を、どう見ていたのだろうか。それに関して、こんなやり取りがあった。
「樋賦琿上皇陛下が、肩書をすべて外して身を引いたと言うのは、どうしてなのかは、彼女に聞いてみないといけないのかもしれない。」
と穂積は、口にした。
「一美さんの考えは、おそらく、彼女を引き入れる事で、この後々の国家を成立させる上で、彼女を引き入れることで、この国家を造る為の重要な人物として、意見を求めに行くでしょう。」
と宗弘は、新しい考え方を取り入れる為に、一美が取った策だったのではないかと、考えていた。
「それが、姉上の考えなら、私は答えが出ると思います。」
穂積はきっぱりと、言い切り、それ以上の事は、言わないと考えるようになってしまった。
「私も同じです。」
と賛同したのが、勇策で、宗弘、伊織も頷いた。全員一致した意見の元に、樋賦琿の受け入れを認めていた。それだけなく、一美のおひざ元である広州では、それに関して、コリア関係の人材でも議論が始まっていた。
「私は、樋賦琿上皇陛下を一美様の考えが、私たちは分かるような気がします。一番敵を知っているのが、樋賦琿上皇陛下ではないかと、一美様は判断したのではないでしょうか?」
と崔秀万が、聞いていた。それに対して、韓恵恩は、
「確かに、今の状況で、樋賦琿上皇陛下を引き入れたのは、正解です。しかし、反発する人も出てくるでしょう。それに…。」
と言葉を切って、
「それに、『大波』政府は、彼女の早期召喚を求めていると考えられます。」
それは言えるのかもしれない。確かに、行方の分からなくなった皇族の1人である上に、一時的ではあるが、政治にかかわった人物と言う事を考えれば、結論は簡単には出ない。
「しかし、一美様の事だから、そのような事は出来ないのではないかと考えてしまいます。まず、広州の政府は、本国政府とは別の考え方をしていますし、それに、その事を気にして彼らが、このような行為に及ぶとも考えられます。」
それに対して、一美は一体どう言う事を考えてきているのか、それを考えるとしたら、樋賦琿をどうするのか、その扱いが問題となる。
はたして、一美は、何を考えているのか、それに、樋賦琿自身の考えがいかなるものか、それが、今後の一美たちの運命を、左右する事に繋がるのだが。

その当人、つまり樋賦琿と一美を乗せた船は、南西に向かっている。その間に、2人きりで話をする時間を設けた。その理由は先ほど書いたとおり、賦琿自身の考えが、はたして如何なるものか、それから、一美の考えが、いかなるものかのすり合わせをしてみようと考えていたのである。
「そこで、賦軍殿と呼ぶ方がよろしいのでしょうか?」
と一美は、意見を求めた。さすがに「上皇陛下」と付けるのでは、堅苦しいし、かと言って呼び捨てするのでは、プライドに傷をつけかねない。それで迷いに迷って、「殿」をつける事で、事を収めようとしていた。
「構いませぬ。全てが外れて、体も心も楽ですし。いまさら堅苦しい言葉をつけられても、似合いませんから。」
と笑顔で答えた。
一美にとっては、緊張のあまり、両肩が震えていたのであるからして、その力が抜けきってしまいそうなくらいであった。
「一美殿と呼ぶことは?」
と逆に賦琿が聞いてきた。
それに、一美は頷いていた。
「実は、賦琿殿を呼んだのは、あなたの考え方と、私の考え方がどこまで近いのかを、聞きたかったのが本当の所です。」
これに、賦軍は、目が鋭くなってきた。
「私は、この『大波』自体が没落するのは目に見えており、それは、『大波』自体が消滅するのはもう遠くはありません。それだけでなく、私自身もそれに関しては責任の一端を免れません。」
と言葉を切り、
「それゆえ、私は、この国が新たな形で出発させるために、そして、私自身は純粋な波斯の血筋ではなく、中華と波斯とコリア、モンゴルの血が流れていて、私は、この国を元の中華の民に、戻すべきだと考えるべきでしょう。」
それに、一美は驚きを隠せなかった。統率した国を、元の収めていた民に、戻すと言う事こそ、一美の考えていた事に近かった。
それゆえ、一美自身の考えと賦軍の考えが、ほとんどだけでなく、全てにおいて一緒だったとは…。一美は、この偶然に、一美自身は、賦軍に好感をもったのであった。

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