タイトル:「広州軍」北田一美 21

その頃、福州にいた幸は、他の日花里などの家臣たちと話し合っていた。孫嬪の話は、前線基地にも伝えられていて、その話題が、取り上げられたのである。
「所で、この国がどう言った事情を抱えているのか、それについても殿は、賦琿様と話し合っていたようですが…。」
と日花里は、幸に、その真意がいったいどこにあるのかを聞いてみた。
「確かに、殿の考えは、孫嬪様と同じ考え方だと思います。今、戦乱を起こしてしまえば、『紅巾』軍と同じ立場に置かれてしまう事になりかねないと考えられるのです。だから、今は、敵の懐に入り込んで、内情を調べ上げて、そして、彼らを追い込む策に出るのではないでしょうか?」
確かに、幸はその様に見ていた。その為に、賦琿を引き入れ、孫嬪の考えも受け入れたと言う事には納得がいく。
つまり、『孫子』の兵法に書かれている。
「敵を知り、我を知るは、百戦危うからず。」
の言葉に合致するのである。だから、孫嬪の考え方に、納得がいくのである。
それに武司等にも、この思想は浸透しており、今は、急ぐ時ではない。それゆえ、今は力を蓄える時であると言った考え方が、広がっていたのである。そして、時代の流れに乗る事が、今の状況では得策だと言えた。
一美は、そこまで考えているのかもしれないと、幸は考えていた。そして、数年後は一体どうなっているのか、これを考えているのではないか、幸に脳裏には、一美の先の戦略を見据えている姿が浮かんでいた。
それから、幸自身は、軍師として前線に就いている紀子にも話をしてみる事にした。
「賦琿様を、こちらに引き込んだのは、我々にとって、価値があります。なぜなら、今後、国家を建設する上で、前政権の体制がどうであったのかを参考にできると言う事です。それ以外にも、軍事を編成する上でも、彼女の知識は役に立つと考えられます。だから、彼女を引き入れた事で、これから、時代の流れを見極める上で、一美様の役に立つ人物になるでしょう。」
と紀子は、謎めいた事を述べた。それに、幸は、頷くしかなかったが、
「確かに、軍師のおっしゃる通りですが、一つなぞも残っております。彼女は、『大波』の元君主であり、国家の建設する上では、役に立つ人物と言えるかもしれません。しかし、時代の流れを読めるのかどうかが、疑問点になります。その事について、軍師殿は、そう思われるのでしょうか?」
幸の質問に、紀子は、
「確かに、時代が読めないのでは、と考えるのかもしれませぬが、君主と言うのは、政治家であるからこそ、時代を読むのに長けている人物が、いると言えます。」
と言葉を切って、幸の反応を見た。頷く幸には、どう言う事か分かっていた。続いて、
「それゆえ、賦琿様と殿が組んだ事は、『大波』にとっては、脅威であろうと思えます。それゆえ、この事態をどう考えるか、それに関しても、的確なアドバイスを行える可能性が高いと考えられる上、殿にはなくてはならない人材になるかもしれません。」
と述べた。幸も頷いて、
「確かに、そうだと思えます。ラフェリア殿が、軍師としてなら、賦琿様は政治顧問的な存在になると、軍師殿は考えておられるわけですね。」
と答えた。
確かに、そうだと言えよう。今、情勢を見るとするなら、賦軍が一美の陣営に加わったのは、価値がある。しかし、今後の不安がないというわけではない。
まず、中華族の一部に、賦軍を毛嫌いする人間もいる可能性がある事、それだけではなく、彼女が政治を取り仕切っていたころに、差別などを受けていた人々から、ねたまれる可能性もなくはない。
しかし、一美は粘り強く説得を続け、一美の考え方が、浸透するまで説得を続けた。その説得が功を奏して、賦琿を徐々に受け入れる空気が広がっていた。

その広州では一美、ラフェリア、賦軍の3者が協議を始めていた。そこに昭代、兼人、宗治、一光、穂積、新次郎が加わっていた。今後の広州をどうするかと言う点で、地方政府から要請を受けたのである。
「さて、広州をこれからどうやって、纏めていくかについてです。それで、多くの方々から意見を述べていただきたい。」
と一美が、号砲をかけた。まず、新次郎が、
「殿が、『大波』軍と連携をとると言う事は、防衛上有利にしておいてから、彼らの動向を見守ると言う事にあるのでしょうか?」
と質問をかけた。それに兼人は、
「確かにそうですが、我々は、『紅巾』軍を抑え込む為に、彼らと組むしかないと、考えているからでしょう。それだけではなく、『大波』がこれをきっかけに、改革を始めるかどうかを見守ると言う意味も込めてあります。それが、孫嬪殿の考え方かもしれません。」
と述べた。しかし、
「それは甘いのではないかと考えております。確かに、それで利益はあると言えるでしょう。しかし、政策の押しつけられるとなれば、話は別で、中華族の住民たちからは、反対意見が出るのもおかしくありません。」
と宗治が悲観的な見方をした。
そこに、賦軍は、
「それより、数年後の状況が見えているとしても、楽観視はできないと考えるべきです。まず、現在弟が皇帝となって以降、勢力をましてきている人物がいます。その存在を忘れてはなりません。」
誰かは、一美と、ラフェリアには分かっていた。
「アブドラ・アル・シラム・ムハンマドと言う人物だな。彼が、どう言った事をするというかは分かってきました。だから、今の状況は、彼らにとって追い風になると言う事になりますね。」
賦軍は、頷き、
「それゆえ、彼らの求心力が高くなってしまい。それによって、多くの人々が、権力者によって迫害を受ける事になる可能性は高いと考えられます。また、『大波』の主要官僚は、駆け引きに長けた人物が多く、彼らのおもい通りにやらされているという現状が報告されております。ですから、このアブドラは、権勢をほしいがままにしている悪徳政治家です。」
そして、それをつなぐ形で、ラフェリアが、
「今のままでは、アブドラ氏の勢力は、拡大の一途をたどるでしょう。故に、それによって不満が出てくる事も、あり得ると考えられます。それゆえ、数年後、不満分子が着実に育っていない限り、彼らに対して戦を仕掛ける事は、できないと考えるべきです。」
と述べた。それに一美は、
「確かに、軍師殿、賦琿殿の述べたとおりだ。今は、軍門で彼らの行為がどうなっているのかを見つめるべきであり、それが、我々にとっては、今後の活動の肥やしにもなっていく。だからこそ、今後の状況を見守らなければならない。」
と言ったのである。
つまり考え方として、今は、『大波』軍門に身を置いて、状況をさらに見極め、そして、その状況が数年後に変わる時に、行動を起こすべきである。その上で、不満を持つ人々を掘り起こし、それを育て上げ、『大波』が行っている政策に異を唱え、それに対しての政策案を、立案し実行する事が求められていた。一美たちは、多くの情報や、多くの知識などを、書きだす為に外国の領事館などから資料のコピーなどを貰って、政策の立案に関する勉強も始めていた。16歳の一美にとって、この勉強は、国家形成を開始する時に役に立つのであるが…、一美は、その前に、軍人として、歴史の表舞台に立たされる事になる。

この記事へのコメント