タイトル:「広州軍」北田一美 22

8月も15日ほど過ぎて、もうそろそろ9月の足音も聞こえ始めた頃、雲南州では、益州の軍の動きに目を光らせていた。しかし、益州では、『紅巾』勢力に対しての抑え込みが思ったようにいかない上、それ以上に軍に対する信頼が、大幅に落ちたのだと、叩かれてもおかしくない事だった。
「今までの宗弘さまの為していた事が、この交代で、イスラムに有利な状況を造ってしまった。これでは、この土地も、中華の魂が消えると言う事か…。」
と危惧を抱く声が、日に日に高まっていた事に因るのかもしれない。
それでも、彼はその答えを変えようなどとは考えていなかった。それゆえ、益州の民の生活での受難は、当面続きそうだと言う事であった。
しかし、今のような状態では、必ず爆発は起きる。それは、誰だって思う事であった。それに…、彼らの考えている事は、イスラムの文化を植え付けると言う事であり、それで、この地域にある宗教を、完全統制すると言う事であった。
しかし、それを許そうとしない勢力が、『紅巾』と名乗る勢力であったので、どう転ぶかは、全く分からないのであった。
その中で、首脳陣はこの事態をどう考えるべきか、迷っていた。まず、何が起きるのかを議題に据えて、話し合う事にした。
アマルフィ等の首脳陣は打つ手が見当たらず、苦悩していた。
「まずいな。」
短く、言うしかない。暗礁に乗り上げた形である。いまさらながらだが、宗弘のいた頃に、どれだけうまく回っていたのかが、身にしみてきた。どうあっても、彼のやり方が、うまく回っていたのであるなら、彼らを呼び戻す事が出来ないかと、考えもした。しかし、雲南の門戸は閉じられており、それはできない。
アレクサンドロは、治安の回復が先にあるので、それをどうするかを自分たちで考えるべきだと主張していた。それは、多くの民に、イスラム教に改心させるべきだと言う事に他ならなかった。
それに対して、チョザーレは、いらだちを隠せなかった。確かに、アレクサンドロの述べた事は、イスラム教の中では有効であろう。だが、考えてみると、ここは中華の中心地、その地域でこう言う事が許されるとは思えない。
それだからこそ、彼らは、どう言った対策を撃てばよいのか路頭に迷っているのである。
「それですから、我々も、なんとかして、この状況を打開するための…」
と首脳陣の一人が、静かに述べる。それに、チョザーレは、
「レイ、分かっているが、これはどうなるか予断を許さない。」
と、言葉をかけた。
レイ・シモーン・ボリバルは頷いて、
「その通りです。今は、何をするべきか、分かっているはずです。」
レイの言葉に、チョザーレは、アレクサンドロの所に行こうと決めていた。
その頃、アレクサンドロは、悩みぬいていた。そこに、チョザーレとレイがやってきた。丁度隣の部屋が、麗の部屋だった事もあって、早く来たのである。
「チョザーレとレイか、こちらにきてくれたのか、話に会った通り、我々はこれから、どうするかを決めなければならなくなる。他の州では、『紅巾』勢力の制圧に乗り出したと言う。そこでだが、この場合、どこかに中華族を閉じ込めておくのが上策だと思う。」
それは一体何か、2人には分からなかった。
「モスクに閉じ込めると言う事しかない。」
つまり、洗脳させる事によって、自らの操りやすいように仕組むと言う事だ。
「それは、あまりにも強引です。彼らには、多くの兵力がいると言うのに、これで仕掛けたら一乱がおきても不思議がありません。」
それを述べたのが、レイの傍らにいた人物である。アメリア・S・アスカでチョザーレの妹であった。
「アメリアの意見ももっともだ。確かに、それをしたら我々は、末代まで汚名をそそぐ事になるかもしれない。だが、これをしないと、彼らは勢いを増していくだろう。だから、これをやるしかない。」
と顔を引き締めながらも、アレクサンドロは答えた。
アメリアは、納得のいかない顔をして、全てを見守るしかなかった。
「このままだったら、『紅巾』勢力が何をするのか、分からなくなるから、彼らには、おとなしくしておかなければならない。」
と非情な表情で、アレクサンドロは命令を実行したのである。

一方、宗弘はその知らせを聞いて、激怒していた。
「なぜなのだ!!! このような事をしたら、民の心は離れていくぞ!!! このような状態にしたのは、誰か、分かってやろうとしているのか!!!」
むしろ叫びに近い怒りが、宗弘の声を震わせた。そんな事をやろうとする性格ではない。と宗弘は思っていたのである。
しかし、
「事実です。これは、我々にとっては、むしろ、この結果を判断材料として捉えるべきです。つまり、彼らの考え方を把握する事が出来ると思います。」
と報告したジョージが、述べていた。確かに、それが、的確だと言うのではないだろうか。
「よし、それだとしたら、この状況を見守ろう。それから、この実態を見つめていこう。それから何かが起きるのかを、見守るしかない。」
それで、宗弘は見守ることしかできなかった。それが、この雲南州の置かれた状況では、致し方のない事であった。一美は、一体どう考えているのか、そして、どう言った形で、この情勢を分析しているのか。
それが気になっていた。
「それより、中華族の『紅巾』軍と、どう言う考え方をするのか、それが気になる所ですね。特に徐州の『紅巾』本軍がどういう反応を示してくるかですね。」
と智光が、気になる事を述べたのである。
その『紅巾』軍の反応は、同じだったのである。今からでも、長江を遡って、益州の軍と対決すると主張する人物も多かったのである。
それだが、汪叙経はそれに関して、今は、そう言う事をしても、何もならないと言うしかなかった。そして、そのリベンジは、上海の攻撃線で晴らすと言う事を言ったのである。
だから、今は耐えていかなければならないと述べるしかなかったのである。そして、汪叙経は睆城に入り、そこから睆城の手前にある濡須口の攻撃を準備していた。
濡須口は、今後、『大波』と、一美の率いる『明』の攻防戦で、重要な場所にもなろうとしていた。
それを、今の『紅巾』軍が攻めようとしていたのだから、彼らにとっても、重要な戦線になろうとしていた事は間違いなかった。
それにしてもだが、彼らは濡須口を奪って、どう言った事を考えていたのか、汪叙経は、濡須口を渡ってから、どういう経路を、取るかを考えていたのである。この汪叙経は一世一代の大勝負に出たのであった。

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