タイトル:『紅巾』軍との対決 22

一方、福州にもこの話が伝わっていた。
「やはり、相手は一美様を狙っているのだと言う事になりますね。」
と高志は、新聞を読みながら、その事について、孫嬪に聞いてみた。
「確かに、一美様は、今や危険な状態にある。だから、一美様も、思い切った事をなさったのかもしれない。」
つまり、それが、一美の取った行動こそ、刺客をあえておびき出そうと言う作戦そのものだったのかもしれない。
それに、『紅巾』軍は、一美たちを警戒し始めたよりも、確実に敵とみなしている。それだからこそ、連携が必要となってくる。
その時に重要な役割を果たすのが、福州だと、孫嬪は考えていた。
「おそらく、今、一美様は、眠れない夜を過ごされているのかもしれない。それに、一美様を狙うのは、『紅巾』軍だけではなくなる可能性もある。」
と孫嬪は考えていた。つまり、
「一美様は、戦争も覚悟している。どうするべきかを考えて、戦争を始めたのかもしれない。それだからこそ、一美様は、危険を承知で、この世界に足を踏み入れたと言う事だろう。」
と一美が戦争を行う、その上で自分の命が危うくなると言う事も覚悟していると言う事も、分析していた。
「しかし、どうしても、『紅巾』軍は、一美様を狙うのでしょうか? しかも、そんなリスクを冒してまで、襲うべきなのでしょうか?」
確かに、その疑問が湧いてくる。それに、孫嬪は次のように答えた。
「確かに、それはそうだと言えるかもしれない。『紅巾』にとって、一番恐れているのは何だと思う?」
そう問いを告げられた高志は、何かと考えてしまう。そして、ハッとして、
「一美様達が、中華を統一する可能性が高いからですか。」
と聞くと、
「それもあるかもしれない。けれど、一美さんはもう少し違った考え方をしているはずよ。第一、この国は、誰によって支配されているのか分かるかな?」
それを聞いて、その前にできる事と言うと、と考えて答えが出た。
「一美様が王になると言う事でしょうか?」
それに、孫嬪は頷いた。
「『紅巾』の勢力が、目指している政治体制は、立憲君主制ではなく、むしろ、民主主義そのものだ。しかし、民主主義とは異なり、一美様は立憲君主を目指して戦う。だからこそ、その違いが、大きな対立を生むと言う事に繋がると言うわけよ。」
それを聞いて、高志は納得し、
「それなら、彼らの意見も無視できなくなってきますね。」
と答えるしかなかった。そうだとしたら…。と孫嬪は考える。一美は、人々が何を考えているのかを見定めなければならないのではないのか、そして、それを追求できる人材が必要となるのではないか、それに、一美たちを支える上で、重要となりうる人材はいるのか、それが、一美たちにどう言った影響を与えていくのか、孫嬪は興味深く見つつも、一美がどういう対応をするのかを見守っていたのである。

結局、一美の所に刺客は襲ってこなかった。その翌日、一美は、霞と絢音、凛、茜、クリフ、優香、静流、紗奈を連れて、とある場所に赴いた。それは、昔から親しまれていた「遊郭」と呼ばれる場所である。この「遊郭」と言うのは、江戸時代の頃に大きな都市の一角に、造成された歓楽街を指している。特に江戸と呼ばれた東京では、「吉原」と呼ばれる土地が有名であり、京都では「祇園」が有名となっている。ただ、時の流れに因って、彼らの職は奪われている。
よって、現在は、この「遊郭」と言うのは、法律上では、禁止されているが、一部には、遊郭と言える歓楽街が存在するのは、現在名前を変えた飛田新地と言う場所ぐらいであり、2000年ごろ、遊郭として初の文化財と言われたくらいである。
それが後々、どうなったのか話がつかみづらくなるが、一美たちの時代に至って、遊郭に関しての法律がなくなり、自由に作られたのだが、新地球宇宙統一機構と言う国家が出来上がって以降は、再び法律の整備に因り、遊んでいる土地の一角をもとにして、歓楽街を併設し整備したと言うのである。
「ここからが、広州の歓楽街『龍伯』と言うものです。この街の遊郭はここだけです。それのどこに?」
と凛は、そう一美に尋ねた。
「確かに、『なぜ、遊郭に案内したのか?』と思うだろう。実は、ここに、私の必要としている人材がいる。それに、君たちを合わせておきたいのだ。」
それに、一美は、なぜここに来たのか、それは、一美たちは、まだ求めねばならなかったのである。そこで、各々の見識に詳しい、『花魁』の力を借りようと考えていたと同時に、情報を集める為でもあった。
実は、一美には、1人の友達がいた。その友達の名前は、名前は大津田蝶子と言う人物である。彼女が、花魁となって今、名前を変え源氏名「胡蝶」となって、ここにいたのである。
齢16の体には堪えるほど、重労働と言うより、体を酷使する行為である。体力が彼女の場合は2人分が限度と言える。それに一美は、彼女に会いに来たのには他にも、友の意見を聴きたかったのである。
丁度、「胡蝶」は寝起きに近い状態であった。
「胡蝶さん、お客様でありんす。」
寝起きからの「胡蝶」は、何を考えているのか着物姿で、出てきたのである。
「どなた? ああっ、一美様ぁ~。」
と懐くかのような声をしていた。
「蝶子殿、そのような声を出されても。」
一美は困った顔をしていた。それもそのはず、「胡蝶」は、小学校を卒業した時から、蝶子は「胡蝶」と名乗って、遊郭の世界に入ったのであるから、その言葉づかいが治らなかった。その間に中学に通って、勉学に励んだのだから、大したものである。それに、一美に経済的な部分を教わった仲でもあった為、2人の関係は、仲睦まじいものであった。
だからこそ、お互いの名前だけで理解できる間柄となっていた。だからこそ、一美は、ただ笑って、「胡蝶」を責めたりはしなかった。
「それで、何か御用ですか?」
と聞いている。
「今日は大事な話があって、来たのよ。」
大事な話とは何か、それが分かればいいのだが、
「今日の大事な話とは、実は、刺客が広州をうろつきまわっていると言う話があってね、それと、人材に関しての情報があればと思ってね。」
その「胡蝶」は、「ふー」と息を吐いた。
「一美様であっても、それはできる相談ではありません。第一、2つの相談のうち、後者は私の裁量ではできませんから、いくら知識を得たからと言っても、人を見る目を養うのは、一美様とてご存じのはずです。」
と断りを入れた。それを聞き、一美は、
「確かに、それはそうだと思うよ。あなたの考えを尊重しなければならないから、だけど、2つ目のお願いは、あなたではなく、雅殿にあてたものなの。」
と言葉を口にした。
突然の事に、「胡蝶」は蝶子に性格が戻り、目を丸くして、
「そ、それは、どう言う事です?」
と歩み寄って、聞いてみた。
「君に、私と共にこの戦乱を乗り越えたい。私はそう思って、君を迎えに来たのだよ。」
一美は、蝶子の目を見ながら、そう語りかけた。一美の意思は固く、真っすぐ蝶子の目を見ていた。蝶子は、自分の感情がうまくコントロールできないほど、心が高ぶっている事に気付いていなかった。

この記事へのコメント