タイトル:『紅巾』軍との対決 25

それから、1日が経ち、一美の体力は元に戻っていた。
「しかし、私は、どう言う事をしたのか、私の体が、ある程度耐えられるようになっていたなんて、信じられませんでした。」
と蝶子が、訪ねて来ていた。普通では、昼の時間帯まで、寝ている頃である。体を酷使する花魁たちは、体力回復の為に、休息を取っているものが多かった。
それにしても、彼女体力が、ここまで回復したのは、一美を含めて6人の気を一気に集めて、一気に蝶子の体に放出したのであるからであり、一美の体に支障が出るのは仕方のない事であった。
それにしても、蝶子の回復力にも驚いた。
「実は相談がありまして、ここに来たのですが、私は、一美様のもとで働きたいのです。おそらく、一美様の考えていらっしゃる事についてですが、私は、中華族主体の国家を造るという構想に賛同したいと思います。」
それを聞き、一美は思わず、身を乗り出した。どうして、そう言う事を聞いたのか、それに、蝶子は次のように答えた。
「一美様は、今のこの国の行く末だけでなく、その後の事まで考えて、兵を集めていると考えております。それに、刺客はあくまで、一美様の命を狙っているだけにすぎません。ですが、それが、弟様などの家族に及んでは、大事になる事は間違いございません。故に、あなたが兵を集めている行為自体は、世間に対して対抗すると言う。事に他なりません。つまり、あなたは多くの敵と戦わなくてはならないと言う事です。」
何を言っているのか、一美は、蝶子の指摘で考え込んだ。ある意味で商いに携わっているのだから、こう言った事には敏感である、だから、一美が狙われている事は知っていた。
だからこそ、このような助言ができるのであった。それに、一美のもとで学んだ門下生的な形で、接するつもりである。だから、一美も、その事について悩んで、時間をかけて、考え込んだ。
(本当にそれでいいのか、彼女は、多くの経験を積んでいる。それは私以上だ。だからと考えると、彼女を採用するのは最もと言える、だが、彼女を危険にさらすわけにはまいらない。)
数分ほど考え込んで、結論を出した。
「分かった。それを言うのなら、私からお願いしたい事がある。それは、この『北田商団』に加わってもらいたい。確かに今の状態は、かなり厳しい状況からスタートしている。その為に、多くの知力を必要とする人材がそろわないといけない。」
と言う事を言って、言葉を選び、
「だからこそ、君には、その頭脳となってもらいたい。そして、私を支えられる人材になってくれないか。それを願いたい。」
と一美は言ったのである。それで、意を決した。一美をある場所に連れていくと、言うのである。
それで、どこに連れていくのか、それは全く分からない。だが、一美にはどこか分かっていた。それは、あの遊郭のあの場所しかない。しかも、前は店の名前を言わなかったが、「花鳥風月」と言う店で、そこに来ていた。昨日が、10月21日だったから、今日は10月22日かと、一美は携帯電話のカレンダーで確認し、そのまま、部屋の中に入ったのである。ここで、三度だが、雅太夫にあった。
「あらあら、一美様ぁ…って、『胡蝶』! どうして一美様を?」
雅の声が届かないまま、蝶子は、一直線にどこかの部屋に連れて行かれたのである。

そこは、誰もいない暗闇、ある事を除けば、そこには1人の男性の姿があった。目隠しをされている。どうして目隠しをされているのか、全く分からない。しかし、一美はその人物の姿に見覚えがあった。その人物は、一美の姿を感じて、
「どちら様ですか?」
と聞く、声に聞き覚えがあった。そう、蝶子の兄、大津田一二三と言う人物だった。一美が、6歳ぐらいの頃に、一二三と会った事がある。その時は目の輝く美少年と言う風貌で、かすかに恋心を抱いた事を覚えている。その時、そこにいた妹を可愛がっていた。その妹が、蝶子であったから、両親が殺され、兄の行方が分からなくなった時、武彦は、蝶子を保護しようと試みたものの、すでに禿として遊郭に売り払われた後であった為に、助ける事が出来なかった。そして遊郭に兄である一二三がいる事を知って、蝶子は愕然としたのである。そして、一二三がすでに失明している事も分かったのである。
「ひ、一二三殿。そのお姿になられたとは…。」
目隠しがされていたが、聞きなれた声に、一二三の目から涙がこぼれていた。
「か、一美殿。どうしてここに…?」
一美の声で懐かしさを覚えた彼が、どうしてここにいるのか、一美はそれが気になっている。
「私は、雅太夫殿のお誘いを受けて、ここにいる事が許されたのですが、代官の手に因って、私と妹を奪われてしまいました。それで、蝶子を『胡蝶』として雇ってもらったのは、雅太夫殿です。」
と告白してくれた。それに、と一二三は続けて、
「蝶子に友達が出来て、その名前を教えてくれた時、あなたの名前が出た事もあり、どんな人に育っているのかと、気になっておりました。6歳の時の記憶しかありませぬが、あの時から成長し、美しい姿になっているのではないかと、そう想像しておりました。声を聞いただけで、私の考えたとおりでした。」
一美は、思わず涙目になってしまった。あふれ出る感情を抑えきれない。
「ひ…、一二三殿…、妹君を助けてやらなんだで、申し訳ありま…。」
と言葉がうまくつながらず、へたりと座り込み、声をあげて泣いていた。護衛で側にいた凛、茜達も涙を禁じえなかった。
そのほか、雅太夫も、蓮華も、ついてきた禿の鈴も、そして蝶子自身も、涙を流していた。一二三は、一美の体をしっかりと抱きよせていた。まるで、以前蝶子を抱きしめたかのように、一美は大きな温かさに包まれる感覚を覚えた。
一美の体を抱きしめた一二三は、昔の事を思い出していた。
「そう言えば、私と蝶子と一緒に遊んでいた時、一美殿が、少林寺のまねをやっていたのを思い出します。」
実際に、少林寺の拳法を習っていた事があったからだが、一美は、そう言った事を気にした事がなかった。
「そうでしたね、私も、あなたの剣術を見たときには、目を見張りましたよ。私も、あのような男の人がいれば、剣術を習ってみたいなぁと、子供心で思っておりました。」
しかし、時と言うのは残酷であった。
「今、その姿をこの目で見る事はできなくなりました。それが、残念です。」
しかし、
「剣術は、目が見えないとしても、できるものです。私は、心の目で相手を見る。あの時にあなたが話してくれた事を、もう一度、2人の家臣から教わって、身につけております。」
と答えた。「家臣」と言われた2人は、顔を赤くした。そう、凛と茜の事であったからだ。
「そうでしたか…。あなたもだいぶ成長なされたのですね。」
と一二三が、優しく一美に言ったのであった。一美は、頭をなでられて、10年前のときめいていた頃の自分自身を思い起こしていた。

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