タイトル:『紅巾』軍との対決 26

すぐ後に、一美と蝶子は、悲しみの部屋から、一旦外に出た。
「一二三殿があんな姿になられたと聞いていたが、そなたの所で、かくまわれていたのには、正直驚いた。しかも、目が見えないのだとは…。」
一美は、先ほど見た状況から、一二三が苦労を乗り越えてきたのであろうと、一美には思えた。10年前は、元気で誰もがうらやむ美男子だった彼が、このような姿になっていた事を、それを見た時、一美の中で自然に涙がこぼれていた事を、一美は、一二三がどう言った気持ちで、10年をどう過ごしたのか、それを考えていた。
誰が、こういう事をしたのか、一美はある人物に思い当たった。
「イスラム系の高級官僚、しかも、監視官僚がここにいると言う事になる。彼らが、一体何をしていたのか、それを調べてみよう。」
と一美は、蝶子に言うしかなかった。雅太夫は、その話を聞き、蝶子をとがめるべきではないと感じ取った。一美と、一二三の意外な関係を聞いた時から、蝶子が取った行動が、こういう事だったと知り、止めようとはしなかった。他の花魁は、蝶子の行動を冷たい目で見ていた。しかし、蓮華だけが違った。蝶子と同じように、蓮華も蝶子から話を聞いていた少数派の1人だった。彼女の気持ちも分かるような気がした。だから、涙を流していた。
「『胡蝶』…。あなたの行為は、廓の中で許される事ではないけれど、一美様の為に、あなたは、行くべきよ!」
その言葉を聞いて、一美は、蓮華を見た。そして、蝶子を見た。
「『蓮華』…、ありがとう。」
ついに、蝶子の目が、鋭くなっていた。それは、ある覚悟を決めていたのである。それは何かと言うと、
「一美様! 私を家臣にしてください!」
と言う事だった。一美は、口が開いたまま動かなくなった。いくらなんでも、家臣になりたいとは、一美は蝶子の決意を感じ取った。だが、蝶子にはそれなりの教養があったとしても、それをどこで生かしていくのかが問題となっていた。だから、その事を聞いて、一美は考え込むしかなかった。だからと言って、蝶子は食い下がるはずがない。そう考えて、一美の決断も固まっていた。そこに、一二三が現れる。
「何を騒いでいるのです?」
そう言われ、一美は、一二三の姿を見て、自分の声が大きかったのではないかと、思いつつ、蝶子に目を向ける。その鋭さは、父親の時と同じだ。
(やはり、私は受け入れる方がよいと言えるだろう。だから、蝶子は、このような目をしているのだろう。)
一美はそれを悟って、目を伏せた。その次の瞬間。
「蝶子、家臣になりたい気持ちも分かる。だが、自らの命が奪われると言う危険も、同時に背負わねばならない。覚悟はできるか?」
と見開いた鋭い目を、蝶子に向ける。蝶子は、じっと瞳を見つめていた。おそらく、彼女の眼には命を捨てるほどの覚悟がある。だからこそ、その鋭く睨みつけるような眼で、一美を射ぬくかもしれない。
「私は、討ち死にする覚悟をしております。もともとから失うものはありません。」
と言いきった。だから、一美にはその彼女の意気込みが、伝わってきたのかもしれない。
「それなら、家臣として迎えよう。ただ、今の状況では難しいと思う。一通りのけじめをつけてから、正式に登録すると言う事にしよう。これで、太夫殿も納得がいくでしょう。」
と雅に、話を振った。
「実は、この『花鳥風月』も、人の手に渡そうかと思います。実は『加賀屋』さんが、お買いになると言う話を持ちかけてきて、私たちも、その話で持ちきりでした。私も、一美様のもとで働きとうございます。」
と述べた。一美は、驚いたものの、その話を受け入れる事にした。

一美が徐々に人材をかき集めていた頃、福州でも同じ取り組みが始まっていた。中心となっているのは、高田勇策と倉坂孫嬪の2人、その2人のうち、孫嬪は車いすで縦横無尽に駆け回っていた。同い年の和久高志も走らされてばててしまうほど、行動の範囲は広かった。
職業に関しても、幅がありすぎて、大学生から企業の社員にまで、当たっていたのである。実際には、勇策よりも、孫嬪達の方が、精力的に動いていたのである。
「御殿はどう言った考え方をしているのかは、分かりますが、軍師殿の考え方は、未来を見据えてでしょうか、それについてお話し願いますか?」
と高志は、孫嬪に聞いていた。実はくたびれて、車いすの上で、座るしかなかった。孫嬪は、高志に少し、申し訳なさを感じていた。
「ごめんねワク、私はこの後の世界まで考えないと、いけないと思う。誰かの考え方を、異なってくる。だから、今回の事態をどう考えるのか、それは私たちのだけでなく、これからの国家形成に必要な人材が、いると思う。だからこそ、私は、新しい人材を求める事が良いと思う。」
だからと言って、何時までも和久高志を走らせるわけにはいかない。だから、2人で走ろうと、考えたのである。
「私の事は気にしないで、乗って。」
孫嬪の車いすに乗って、2人は人材探しに出かけた。一方、勇策達は、人材探しを続けてきたのである。実は、孫嬪達と同じ考え方に至っていたからこそ、孫嬪達に全てを託したのである。
「孫嬪達は、戦っている。私たちも、戦おう。」
と言い、人材探しに奔走したのである。
とにかくあらゆる大学生、あらゆる企業の人事担当者を片っ端から当たって、臨戦態勢を整えていったのである。
「まず、君たちの大学は、どう言う人材を育てているのです?」
と聞く、
〈そう言われますと、我々は、世に公正な人材を育てているつもりです。〉
と答えるのが多く、それに対しての反論は、
「それでは、世に公正だとあなた達は、仰っておりますが、世に公正な人材が果たしてうまれているでしょうか? 少し、気の触るコメントかもしれませぬが、今の『大波』の社会が果たして公正なものなのか、疑問をお持ちではありませぬか?」
と、人材の担当者を絶句させていたのである。なぜなら、彼らの述べている事は正しかったからである。本当に世の中に公正はあるのか、正しい事はあるのか、公正な世の中でないからこそ、反乱と言うのは起きるのではないか。勇策達には、そう思えていた。だが、彼らの生活でも、イスラム教の考え方は浸透していて、それに疑問を持つ人材が少ないという実情もある。それゆえ、彼らにとっては、中華族を非難する事は、当然の事だと思っているので、この世界が正しくないと考えている人間は少数にしかならない。
そこを突いて、勇策達は人材を見つけようと考えていたのであり、彼らの置かれている状況を変えないと、こう言った考えを持つ若者が増え、変革する事が悪であるという意識を植え付けかねないと考えていた。それに反応した大学生もいる。
つまり、孫嬪と勇策達の行動は、中華族がどのように立ちあがり、如何にして、新しい時代を担える人々を、輩出していくかと言う事を、考えながら、強いては新国家建設を視野に入れ、行動していたのである。
実は、こうした行動が、後々一美たちを支える人材を生む力となった。

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