タイトル:『紅巾』軍との対決 28

資料を読み通し、その中から、ピックアップしたものを、2,3通抜き出して、家臣たちの手元に渡した。
「まず、手元に2通の封書がある。これが、目にとまったので、まずここから探してみよう。この2通と…、3通目、それから、これも…だな。4通目、合計45通のうち、6通の人に当たってみる。そこで、私と蝶子と凛は、2通目と4通目を当たってみる。それで、茜と霞と鈴は、1通目と5通目を当たってくれ、茜が以前きた事があると言っていたのを思い出したのだが、行けるか?」
と話を茜に振る。
「大丈夫です。」
と茜は答えた。
「それでは、次に、残った3通目と6通目は、クリフと優香、それに小春さんにお願いしたい。それでよいかな?」
と一美が聞くと、クリフは頷いていた。そして、3組に分かれた一美たちは、それぞれの場所に向かって、『加賀屋』に変わる『花鳥風月』を後にした。
まず、一番遠くに行ったのが、茜の組、次に、クリフ、最後に一美という順番である。
茜達は、中央のダウンタウンを抜けて、港側のベイエリアにやってきた。その1通目は、そこで寿司問屋「柿乃屋」を営む商人の一人であった。実は、北田商団とも取引のある所だった。それに、凛と茜も1通目の手紙の人物とかかわりがあったのである。
「これは、誰かと思えば、茜様ではござりませぬか? どうなされたのですか?」
と聞いてきた。それに対して茜は答える。
「それは、この手紙に関しての件で、お伺いをしたと言う事です。」
と蝶子の書いた手紙を差し出した。担当していた受付番頭は、
「是の事ですか…。ああ、これは、私と、旦那さまで検討して回答したものです。確かに、我々の中にもそう言った事を考えている人材が多いと、担当から直接耳にしております。」
番頭の名前は矢次盤座衛門と言う人物だった。
「実は、手前もこの国を変えたいと考えている1人で…。」
と照れながらも、3人に説明していた。
「そこで、あなた達に、その話を聞きたくて、旦那様がお呼びしておりますので、できればそちらにお越し願えますか?」
と尋ねた。事実上、蝶子こと『胡蝶』の常連客のようで、蝶子の事が好きなようであった。
「お、おいでなさったのですか、しかし、『胡蝶』太夫の友達が、こんな形で、お越しくださるとは…。」
お互いに、お初にお目に掛りますと述べた後、それぞれに氏名を紹介していた。
「私は姓を柿乃屋、名を源三と申します。父親は源右衛門、兄は源治と申しまして、と言いましても『源氏』とは異なりますが、この柿乃屋を継いでおります。」
そして、まず鈴が、
「『胡蝶』太夫の代理で参りました。『鈴』と申します。『胡蝶』太夫さまの禿として、身の回りの世話をしております。本日は、書状の一件に関しまして、参りました。」
と答え、次に、
「私は、姓は仁部友、名は茜と申します。『北田商団』におきまして、一美様の護衛兵訓練の副司令を務めております。今回は『鈴』殿の護衛を頼まれただけではなく、一美様の命により、他商団との連携強化と人材関連の事で、尋ね参った次第でございます。」
さらに、
「私は、陽霞と申します。もともとは『紅巾』軍に在籍しておりましたが、現在は『北田商団』のもとで、働いております諜報武官です。今回は、人材関連と他商団との連携の強化について、伺いたく、参った次第でございます。」
源三は分析をして、
「3人が参った目的は、一つ、人材に関してのお話ではござりませぬか?」
と尋ねた。それに3人とも顔を見合わせた。だが、正解のようであって、
「確かにその通りです。しかし、何を考えておられるのかは、想像しておりましょうか?」
と逆に質問をかえしてみた。なぜなのかと源三は、考え込んでいた。何を目的に将兵たちを集めていくのか、それに、彼らの意図は何か、それが分かれば、答えははっきりする。
「おそらく、反乱を起こされると言えばよいのでしょうか。」
残念。それは、一美の頭の中にはない。それで、再び源三は考え直す。しかし、間違っていると気付くと、急に頭を振って、その考えを振り払い、新しい考えを探ってみる。
「つまり、一美様は、守備防衛の為に、兵を集めているとの子ではないでしょうか。これなら…、しかし、殿勢力と戦うかとなると、『紅巾』軍か、『大波』の政府軍か…。」
と迷っていたりした。
「前者の可能性が高いです。今の所はですが…。」
と霞が答えていた。しかしと、源三は言いかけてそれを止めた。そう、つまり、『紅巾』軍の勢力が、今どこまで来ているのかを知っていた彼だから、その言葉を飲み込んでいた。その後、其の3人に、どう言った形で、軍を結成するのか、商売に関してはどうなるのかなどを、話し合っていく事になった。その一美本人の方では。

一方、一美と蝶子は、近くにある「紀ノ屋」に出向いていた。その「紀ノ屋」の主人から、話を聞いていた。いつも、紀ノ屋が利用していたのである。しかも隠居した者が、このような形で、蝶子を含む『花鳥風月』をバックアップしていると言う点が、一美はどうしても気になっていた。
「とりあえず、この老いぼれに何か用件があって、来たのでしょうか?」
一美は、直球と見せかけて、
「そう言えば、この『紀ノ屋』は海鮮関連を一手に担う、大企業でそれで、俵物などについては、彼らの方が一番強い。それでですが、私たちに、知恵を頂けないでしょうか?」
それで、はて、と首をかしげた。
「一美様と言われましたが、あなたがこの事態を如何にお考えなのか、それが私には気になっております。それゆえ、私は、今までの考え方を持っていない人材と言う意味ですか?」
と隠居は聞いていた。名前は紀ノ屋惣衛門と名乗っているが、彼は一美が何を考えているのか、見ようとしていた。同じ商人の先輩として、彼は何かをアドバイスしたかった。
「御隠居様、その考えはあっております。」
と一美は答えると、
「そうですか、それより、『胡蝶』太夫は、引退とか聞いておるが、どうしたのかね?」
と蝶子に話を振る。
「私は、今月限りで、見切りをつけようと考えております。それだけではなく、『花鳥風月』の経営権を譲渡してもらったと言う話がありまして、それで、私たちはその事を機に、一美様の率いる『北田商団』に加わると言う事になりました。それゆえ、大丈夫です。」
と述べた。それを聞き、
「そう言う事でしたか、それは聞き及ばなかった事だ。それより、一美殿。」
と急に一美に話を振った。何か、と言う顔をしてみると、
「一美殿は、何かをお変えになりたいと考えておりますか?」
と惣衛門が問いを出して尋ねた。それで、一美は、
「顔に出ておりますかなぁ。」
ととぼけて見せた。
「それは、ないと思いますが、目がそれを語っております。目とか表情とかに因って、変わると思いますから、私だけではなく、多くの人たちに言える事ですから、気になさらずに…。」
一美は、惣衛門の好々爺のような顔立ちに、ある意味不気味さを感じずにはいなかった。確か、名軍師と言われている黒田官兵衛孝高のように、戦線で頭脳的な役割を果たす可能性の高いと一美は見ていた。
「惣衛門殿、できれば、私を支えて下されませぬか、それができれば、よろしいかと思いますが…。」
それが良いと、思うのだが、
「いえいえ、私は老いた身に、鞭を打つ事はございますまい。」
一美は、身を乗り出して、
「そんな事を言われましたら、こちらは、どう考えればよいのか分かりません。」
それを言われて、困ったなと言う顔をして惣衛門は答えた。
「このような考えを持っている若者は、私の元にもようけいおります。故に、私がいなくても、一美殿の考え方に共鳴してくれる人が多御座いましょう。」
と諭した。確かにそうだ、惣衛門は年齢を重ねて、自らで行動を起こす事はできない。現在、平均寿命が長くなったとはいえ、自ら、足を使って行動する寿命は、宗高くはない。
「分かりました。惣衛門殿、それなら、私自身で何とかやってみます。」
と決意したように、顔が鋭くなった。それを見たそう衛門は、
「そなたの母親と似ておりますぞ。その顔からして、まさしく何かをやり遂げようとする顔ですぞ。」
と言われて、ハッとする。
「それより、言われておりましたが、私の部下たちに声をかけてみるといたそう。それで、一美殿の元に、送りましょうぞ。」
と心強く述べていた。
「ありがとうございます。惣衛門殿。このご恩は忘れませぬ。」
と述べて、深々とお辞儀をした。
「お待ちくだされ、一美殿、これからは、そなた達の時代だ。そなた達と、『胡蝶』太夫を含めて、この国をどのように立て直していくか、それが、今のそなた達がなすべき仕事ではござらぬか?」
と言われて、一美は頷いた。確かにそうだ。今この国を動かせるのは、自分たちだと一美は考えていた。
「その通りです。本日は、誠にありがとうございました。」
と、礼を申し上げると、一美と蝶子たちは、次の手紙を送った人物の元に向かう為、一礼してから席を外した。惣衛門は、一美たちの行動に、自分が出来る事を考えていた。

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