タイトル:『紅巾』軍との対決 30

一体蝶子はどこにいたのか、一美たちは探していた。
(やれやれどこに行ったのか、まったくもってわからん。)
一美はそう思ったのだが、ふと気になった事がある。そう言えば、
「離れるように」
と彼女には言ってあったはずだ。
(だが、戻ってきてくれと言っても、彼女は、そこにはいないし…。)
と考えた瞬間、一美の顔が変わった。
(刺客の1人少ない。確か、現れたのは6人。だが、斬ったのは5人。1人足らんぞ、と言う事は、蝶子が危ない!)
一美は何かを感じ取って、蝶子の走って行った方向に、一目散に駆け抜けた。蝶子が、襲われた可能性があったからである。
(蝶子、無事でいてくれ!)
と心の中で叫びつつ、一美は4人の家臣と共に、駆け抜けていたのである。
走っていた先に、地面に腰を付けた蝶子の姿を見つけた。そのままそっと忍び足で、相手に近づこうとする。一美たちは、そのまま、差し足忍び足と相手に迫って行く。その中で、相手はまだ一美の気配に気づいていなかった。そして、そのまま素早く剣を突き刺した。
その直後、
「うぎゃぁぁぁ!」
と悲鳴を上げて、男は倒れた。その後、蝶子の元に駆け寄った。
「怪我はない?」
まるで、一美は家臣を心配する大将の顔ではなく、本当の友達を心配するかのようなしぐさをしていた。
「大丈夫です。」
だが、一美には張り詰めた緊張感を切ろうとはしなかった。
「一美様!」
と蝶子の声がかかり、一美が反応する。
「まだ、刺客はいる。どこにいるかは見当がつかないだが、それより…。」
と言いかけて、一美は蝶子を抱きしめたまま倒した。なぜか、手裏剣みたいなものが飛んできたのである。何だろうか、手裏剣がなぜ。
「蝶子と風間殿は、ここから離れるのが先決だ。後で、『花鳥風月』で会おう。」
と言うと、霧に蝶子を託し、刺客と再び剣を交えた。すでに空中戦に突入したが、何とも風変わりな、服装をしたくのいちで、静流の攻撃は歯が立たないと言った感じである。
それに着目し、一美はすぐに、剣を光に当て、すぐに光の鎧をまとい、すぐに行動を起こす。そして、その相手をめがけて、光の銃弾を放った。その弾丸が、服装の一部に当たり、それに気付くと、一美も飛び上がった。
その飛び上がり方も、少しおかしなものになっていた。何と、足元から浮き上がる形で飛び上がったのである。これには静流も驚いた。
「どうなっているのです?」
と、それしか言えなくなっていた。くのいちはすぐに手裏剣のようなものを放つものの、一美の動きが早く、その手裏剣は簡単に、よけられてしまう。相手は、主武器となる双剣を携え、一美に斬りかかるが、一美は剣をライフル銃のようにして、相手を攻撃、3連弾のように連続で、光の銃弾を放つと、それを相手が交わすかどうか、見極めた。
結果は、1発が命中、しかも最後の方が命中したのである。相手は、それでも懲りぬかのようであるが、さらに2発を放ち、命中させた。相手の体力が徐々に奪われ始め、最後には、空中に漂う事が出来なくなっていた。そのほかに、紗奈が相手していたのは、学生服を身にまとった少女との戦いだった。相手は日本刀。それに対し、紗奈は武器として、一美の持っている剣の複製版で相手をしていた。
そして、凛はもう一人の学生服を着た少女を相手に、激闘を繰り広げている。一美の師である凛は、神道無念流で相手を翻弄していた。
しかし、一美の相手が早くも現れた。いでたちは着物姿の動けると言う格好をしている。しかし、格好としても、動きやすい着物みたいである。長刀で斬撃をしていたのである。
しかし、後ろに引いて避けるが、さらに逆袈裟掛けされて、さらに引いた後、胴斬のような形で振りかぶられ、それを飛んでよけた。その動きは俊敏ではあるものの、隙が大きく、一撃で突く事が出来ると、一美は読んでいた。
そしてもう一度、胴斬を仕掛けたのを飛んでよけて、すぐに、上から袈裟掛けをした瞬間に、中に飛び込んで、肘の打撃で相手の腹部を突き、そして長刀の長い柄を、真っ二つにして、攻撃していた方を、剣の塚で手首を撃ち、長刀の先の部分が飛んで、高校生のグループが陣取る通りの手前で、地面に吸い込まれて動かなくなった。
そのまま、その少女は、小刀を手にしようとする。しかし、一美は剣の塚の部分で相手の左手首に、光の銃弾をかすらせるように当てた。
結果は、手首から少し離れた二の腕をかすり、小刀を落としたのである。それでもまだ、相手は、足袋と言うべきか、草履の先から小型の剣を出して、攻撃する。
(この者は、只者ではない。小型兵器ならなんでも用意して来るぞ。これは用心だな。)
と考えつつ、隙間を細かく分析し、そのまま、剣を走らせる、あくまで、体を傷つけることなく、戦意をくじくには、と言う事で行きついた先に、一美は、彼女の腰部分と、胸部に集中して、剣を走らせていた。
その結果、相手側の動きは見事に止まった。小型の剣持折れてしまい。上に視線をずらすと、腰にまとっていた着物のようなスカートや、胸を覆っていた布の部分は、ちぎり取られたような状態になっていた。しかも、一美と同じ年齢の少女だから、その恥ずかしさとなればたまったものではなく、その場にへたり込んでしまった。
へたり込んだのも無理はないが、武芸の強さで幾人もの猛者を倒してしまったこの実力に、相手側が参ったのも事実だった。
「なぜ、私を狙う。」
と一美の口からは自然にこんな疑問が出ていた。
「私は、我々の主張を受け入れようとしない勢力は、つぶすと言うのが我々の考え方だ。だから、殺す。」
と、相手は述べた。しかし、一美は、顔をしかめず。
「だが、人にはそれぞれ個性と、多くの思想と言った考え方を持っている。それを、自分とは異なるからと言って、排除すると、生きていけなくなるぞ。しかも、そなた達は『紅巾』の者だな、言っておくが、『紅巾』が天下を取ることはできない。その理由は大義のない者たちの寄せ集めであると言う事だ。その為に、分裂が起こるのは目に見えておる。」
と一美は、相手に対して、言ったのである。
「…。」
言葉が、出てこない。その事まで見通していると言うものだった。それだから、一美の顔には、自信があった。だとしても、一美の頭には、『大波』だけでなく、『紅巾』の崩壊が目に見えていた。
このままでは、両者とも国を建てるほどの体力はない。それに、自分の主張だけを押し付けるのが、どれほど困難を伴い。それによって自沈した国が、いくつも存在したのを、一美は知識として知っていたのである。
その捕虜を、広州の州政府に引き渡して、一美たちは『花鳥風月』に急いだ。
そこには、彼女の帰りを心配した蝶子の姿があった。その姿を見て、緊張感から解放されたのか、一美はその場で、へたり込んでしまった。

それから、1時間ほど寝ていたのか、蝶子の部屋は静かになっていた家臣たちは隣の部屋にて、作業をしており、護衛として回ってきた静流と、紗奈も作業に加わっていた。そして側には、一美に対して忠告をしていたラフェリアがいた。
「うっ、うううっ。私は、どうしたのだ…。」
一美は、ラフェリアに、尋ねていた。
「一美様、一美様は眠られていたのでございます。その眠っている途中に、新たな指示を出しておきました。」
とラフェリアの声で、一美は驚いた。
「軍師殿。どうして、ここが分かったのですか?」
一美の驚いた顔をしているのだが、ラフェリアは、笑顔で、
「雅太夫殿が、私にお知らせしてくださったからです。」
と答えた。
(雅太夫殿、恩に着ます。)
と心の中で静かに感謝の意を唱えた。
そこに、蝶子の親友『蓮華』が来てくれた。
「とにかく雅太夫様が、お世話してくれと言われましたので、今は、約を外れております。他の太夫たちにも声をかけて、自主的に、する事にしました。」
と話してくれた。
「ありがとうございます『蓮華』殿、一美様は、数日で回復なさると思います。」
とラフェリアは、『蓮華』に言ったのである。
「そうか…。私の体は、それに耐えきれるものにはなっていない、と言う事だなぁ。」
一美は、『蓮華』に対して、そう言うしかなかった。
「一美様、私たちも聞きたい事があります。『紅巾』軍は、なぜ天下を取れないのでしょうか?」
それを聞き、一美は、口をひたいた。
「私は、それぞれの勢力の寄せ集まった組織が、『紅巾』軍であり、その形は千差万別になってしまいます。軍の規模もそれに比例します。故に、多くの軍を持っている勢力が、大規模な遠征を行えると言えます。その為に上に立てると言えるでしょう。問題は、上に立つ人材の考え方そのものです。彼らは、一体何をしているのかを考えると、おそらく、中華族でも、イスラム等宗教で異なる考えを持つ人や、彼らの考え方が急進的だ、と非難する人を排斥するという動きがみられていると考えられるからです。」
確かにその通りだった。それが、多様性を受け入れると言う事が、今の『紅巾』が崩壊するのは、もう時間の問題だと、一美は考えていた。

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