タイトル:『紅巾』軍との対決 31

その日の夜中、一美は、体力の回復を待ちながら、携帯電話を見ていた。すでに、今日で11月に突入する。それにしても、ずいぶん、短い間に、一美たちは、多くの経験をしたような気がしてならない。
だから、体を動かしたいあまり、寝返りを何度も打とうとするが、それは効果のないことだと、一美にも分かっていた。
そこに、蝶子がやってくる。その音で何が起きたのかが理解できなかったが、
「何をしているのです?」
と寝返りを何度も打つ一美に聞いた。
「いや、運動をしていてね。」
それに、蝶子の口から大きなため息が漏れた。
「それは運動とは言わないでしょ。それより、今は休む事が一番よ。だから、体を大切にして…。」
と声をかけた。自分の命を救ってくれた一美には、死んでもらいたくない。それだから、他の「花魁」と交代してもらったのである。
「そうだったのか。交代してもらったのか、それではお客が取れないでしょう。そなたを求めて通うお客も、いるかもしれないが、良いのか?」
と聞いた。
「それは、他の人に代わって頂いたので、私は大丈夫です。それより、一美様が私を助けてくださった事からすれば、私が恩返しをしてもよいのではないでしょうか?」
確かにその通りだ。蝶子にとっては命の恩人を、みすみす死なせるわけにはいかない。しかし、それは大げさなものだが、蝶子にとっては大切な人を失いたくないとそう言う気持ちが表れていた。だから、一美の体を心配していたのである。
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。」
一美の言葉に温かみがあった。
「あまり無理をなさらないで、それより、軍師のラフェリア様から、お薬を持ってきました。これをお飲みくださいと、指示がありました。」
と、手元に手紙を添えていた。その文面を開くと、
〈一美様
あなたの体の事を想うと、つい夜も眠る事ができませんでした。自分で能力を引き出させておいて、いまさら何だと思われるのかもしれません。しかし、一美様の体は、長時間の戦闘を行う能力があるものの、それにエネルギー、つまりは体力が、追いついていない事が分かってまいりました。その理由は、エネルギーを使って、光の鎧をまとうと言う、体質にあると言えます。ここは、この薬を飲み込んで、その体に負担をかけないように、いたわってあげてください。
ラフェリア〉
このように書かれていた。この薬を飲めば、自分の体力も回復できるのであろう、と察しはついたものの、どうしてラフェリアが、そこまで知っているのかと言う事についての疑問がぬぐい切れなかった。
「今から軍師殿をお呼びしてくれないか?」
と蝶子に言うと、
「ラフェリア様は、隣で休んでおられます。お呼びしましょうか?」
と聞いた。それなら早いと、一美は考え、
「すぐに呼び出してくれ。」
と頼む事にした。すぐに、ラフェリアが呼ばれて、蝶子の側に、腰を下ろした。
「軍師殿、伺いたい事があります。私の体は、どうして戦闘に耐えられる体になっていないと言うのです。」
と尋ねたのに対して、ラフェリアは、
「私が、一美様から龍を導き出した時の事を思い出してください。あの時、どう言った事が起こったのか、あなたは御存じでしたでしょうか。」
と逆に返された。それで、一美はあの時の事を思い出した。
体の全身にしびれが走り、そのしびれに対して、耐えようとしていた。しかし、その後、倒れてからは何も覚えていない。そして、その後で、自分の体が変わっていた事に気付いた。
その時に気付いていたが、一美の体には大きな負荷がかかっていたのであり、一美の体にある意味で、変形を余儀なくさせられたのである。その意味で、一美の体力は上がるように、ラフェリアは対策を施したものの、光を発して鎧をまとうには、それ以上の体力を必要としている為、一美の体力を上げなければ、意味がなかった。だから、一美の体力が追い付いていない段階で、光の鎧をまとってしまえば、短時間での戦闘には耐えられるものの、長時間の戦闘には耐えられない。
では、長期間の戦闘が出来るにはどうするかと言うと、方法は一つ、一美の能力を上げる、これしか方法がないと言う事になる。
つまり、一美の体に、直接気を送り込むと言うのだ。それがどれだけのリスクを伴っているのか、ラフェリアには分かっていた。
「私の体は、まだ、長時間の戦闘に耐えられないと言うのであるな。そう言う事ではないのか?」
とラフェリアの表情を察して、一美は聞いてみた。どうやらラフェリアの顔は、少し暗くなる。
「それに立ち向かうには、一美様の意思が確実でないといけません。実際に、一美様の能力を上げるには、一美様の体に直接気を送り込まねばなりませぬ。その為に、私たちの負担が大きくなる可能性も否めません。ですが、このままでは、一美様の体には、今まで以上に負荷がかかり、命を落とす事に繋がります。それだけでなく、一美様の体は、一美様だけではなく、商団を支える重要な立場にいます。あなたと言う存在が欠けてしまえば、他の家臣たちを、路頭に迷わせる結果をもたらすはずです。その為には一美様には、覚悟を決めてもらわないと、前には進みません。」
と、一美の存在が、多くの家臣たちに影響している事を説いていた。
「それなら、今すぐにでも始めなければならないな。だが、それで、家臣の命が身代わりとなれば、それこそ、本末転倒と申すべきではないのか?」
確かに、そうなってしまったら、家臣の親に対して申し訳が立たない。と一美は思っていた。
「確かに、その通りですが、これからも、このような状況が多々起こりうると、考えられます。ですが、家臣は君主の為に命を捨てると言う覚悟があり、それに対して、君主は何を思われても、それが正しいのなら、その通りに遂行すると言う事も辞さないと言えます。ですから、気になさってはなりませぬ。」
とラフェリアが返した。
「そうか、それなら、私の覚悟は決まっている。この申し出を受けようと思っておる。」
と一美は、前もっての決断をしていた。どうするかについては、ラフェリアから聞かなければならない。
一方、それを聞いたラフェリアは、
「それでは、上半身の服を脱いで頂き、背中を向けてくださいませんか?」
と一美に、述べた。そのまま、上半身を覆うものを脱ぐと、背中をラフェリアの方向に向けた。
「これでいいかな?」
とラフェリアに尋ねる。
「ええ、このままじっとしてください。」
と答え、ラフェリアは、その場所を離れていた。そして、4人に協力をしてもらうと言う事で、凛と茜、優香、クリフを呼んでもらって、どうするのかを協議してもらった。
「どうするのか、決めたの?」
と一美は尋ねたが、ラフェリアの代わりに、蝶子が、
「どうやら、決まったみたいです。5人で、背中に手を充てるとの事です。」
と答えた。それを聞き、一美は眼を閉じる。その直後に、ラフェリアの手を中心にして、左右に、凛と茜の手が一美の背中に触れ、凛の隣には、クリフの手が、そして茜の左隣に、優香の手が触れられた。その先から光が、発せられ、一美体を覆い始めた。

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