タイトル:『紅巾』軍との対決 32

その体に流れた気は、どこまでも流れ続ける河の如く、その大河は、一美の体の中で光の溢れる泉となって流れ込んでいたのである。
渾沌としていた中で、一美の背中には、一つの光の通り道のような刺青みたいなものが、うっすらと表れていた。だが、その光の刺青は、一美はそれを体に現しながらも、自分の体がどうなるのかが怖くなっていた。
一美の体は、とんでもない光のエネルギーで徐々に、内部が強化され始めた。内臓などは、体力を蓄えられるように、筋肉質の部分が強化され、まるで、体から何かが溢れだすような感覚を覚えた。
この刺青の中に、光の通り道が出来ており、その中に5人の気が一気に送られて行く。まるで、機械に因って、自分自身が、別の自分に変わってしまうのではないかと考えてしまった。
しかし、体が変わったとしても、一美は一美で、何も変わると言うわけではない。それでも、一美はその事を気にしていた。
(この時に、話しかけては、ならないな。)
と一美は、そのまま、後の事を考えて、そのまま話しかけようとはしない。
(困ったなぁ。)
そう、5人は声をかける事が出来ないほど、集中していたのである。声も出せないほど集中力を切らさない。それでいて奇跡と言えるほどの、集中力である。これでは、話そうとはしない。
一美の胸の部分にも刺青が現れ始めた。これは一体、どう言う事だと、一美の体には驚愕の表情が現われる。それは当然の事で、自分の体に身に覚えのない刺青が現れてしまえば、それが何かと考えてしまうのだから、当然の反応と言えるのかもしれない。しかし、ある事を思い出して、一美は耐えたのである。
どうしてなのか、一美はそれに耐えきっていた。

この変化にいち早く気づいたのは、ラフェリアだった。髪の毛がラフェリアと同じ、金色に変わっていた事だ。それに、一美の髪も大きく変形し、まるで龍の背中のように盛り上がり、まるで龍の背中を見ているようだったのである。どうしてこう言った事が起きているのか、一美の中にあった龍が覚醒したのか、それとも、一美の別の部分が、龍を演出しているのか、どちらが正しいのか全く分からない。
しかし、この一美の変化にはラフェリアだけでなく、その周りにいた凛も、茜も優香も、クリフも気づいていた。それに何時終わらせればよいのかを考えると、それを言う事が出来ないと考えていた。だから、何も言えなかったのである。
それを知っているのかどうかは分からないが、一美は、それに気付いていた。だからと言って、一美に何ができたのだろうか、自分自身の力ではどうにもできない現象が働いていたのだから、それを抑え込むには一美の体では、無理があったのだ。
それでも、一美の体の異変には、其の5人が気付いていた。だから、一美の体は、長時間の戦闘に対応できる耐久性能を備えていたのだから、一美にはありがたい事だった。

実は、その頃、7人の生徒たちが、一美の滞在している『花鳥風月』に来ていた。其の7人の生徒達が、一体だれを探しているのかと聞くと、それは、あの時、長刀を折った少女…、そう一美の事だった。
どうして彼女たちが、と言うよりは、男2人を含めて、そのもの達が一美に会いたかったのか、それは、先ほどの戦闘そのもので、一美が発揮していたものだったのである。一美は、戦闘能力の高い能力で、他を圧倒していたのだから、それを見て純粋にかっこいいと思っていたのかもしれない。しかも女性が、ここまでカッコよく戦う姿は、同世代の少女達から見れば、憧れる存在だった。その存在に一美はなっていたのは今まであったが、こうして、尋ねてくるのも珍しかった。
其の6人のうち4人は女性で、後の2人は男性であった。その2人が、『花鳥風月』に到着した時、『花鳥風月』の中ではとんでもない事が起きていた。

一美の体には力がこもっており、何が起きたのかは分かった。しかし、自分の体には外から見る限り、変化は起きていない。視線を自分の体に落とすと、曲線のラインはそのままだ。
(どう言う事だ…、私の体がどうかしたのか? 体は変わっていない…、……、そうか、私の体の構造が変わったと言う事か…。)
一美は、
「軍師殿、私は、生きているのか、それとも、死んだのか。どちらか…。」
と一美は聞く、
「一美様。」
ラフェリアが口を開く。それで、一美に対して、
「今も生きておいでです。そして、龍の力は、一美様の中に定着しております。」
と、衝撃的な言葉を受け取った。
そうか、自分は体の中に、と一美は思いながらも、上着を着込んだ。そして、着込んだ上着の中で、何かが暴れる感触を感じ取る。どうすれば、これを沈められるのか、一美は、それを思った。
「一美様、体が暴れるのではないでしょうか。」
とラフェリアが、それを察していた。それで、ラフェリアは、
「その通り、私の体の中で、荒ぶる神の如くだ。だから、私が私でなくなるような気がしてならない。」
それをそばで聞いていた蝶子は、一美の側に寄り添っていた。一美は、その体をどうするのか、しかし、何を思ったか一美は来ていたはずの上着を脱いで、そのままじっとした。
「かっ、一美様!」
とラフェリアは、一美の行動に驚いた。蝶子は何をしたのかを判断していた。
「一美様、一美様の体の気を沈めれば、大丈夫だと言う事ですね。それなら、私が全身を使って沈めましょう。」
と言って、体を覆っていた着物を払いのけて、何もまとわぬまま、一美の背中にまとわりつくように、抱きしめていた。
「蝶子…。私の代わりに、全ての穢れを受け止めてくれる?」
蝶子は何も言わぬまま、抱きついている。それに一美は、何も言わないと、心に決めた。
「私は、全てを受け止めるつもりです。龍の化身になっても構いません。龍を宿す時こそ、私が生まれ変われます。それに、私の体を全ての穢れから救いました。そして、今度は一美様を穢れから救いましょう。」
一美は、その言葉を受け入れるが、
「蝶子、私の穢れは、そなたの穢れよりも大きく強いものだ。そなたは死ぬかもしれぬ。それで良いのか?」
と聞く、蝶子は、何も言わずそのまま、一美の体に抱きついていた。
「蝶子、それが私に対して、孝だと言う事だな。」
と一美は呟く。それに、ラフェリアは、自分の犯した罪を自覚するしかなかった。
(一美様、あなたを必ず、この国の君主にして見せます! それが、私に与えられた罰です。これを成し遂げるまで、死にはしませぬ! だからこそ、私に、全てを任せてください!)
と心の中で、一美に誓ったのである。

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