タイトル:『紅巾』軍との対決 42

さらに会議は続き、一美たちは色々と結論を出し合っていた。
最初に、確実に軍備を温存し、その上で、守りを固めるのはもちろんの事ながら、時としては攻めも撃つと言う形で決着がついた。その次に、籠城できる期間は1月から2月ほど、それ以上は難しいという結論に達していた。一美達にもむしろ、自分達の地域だけではなく、中華全体が危機的な状況にあると言う事をひしひしと感じていた。
事態はさらに深刻になると、一美自身は考えていた。だからこそ、多くの施策を出し合って、それぞれを修正し、そして、生き残る為のこれ以上の修正が聞かない策を出すのが良いと言う考え方で、話し合っていたので、策を出すのに時間がかかり過ぎると非難されるのは仕方のない事だった。
それに、『紅巾』軍は日を追うごとに進んできている。今日は10月も終わりに近づく27日で、何事もなければ、そのまま商団は安泰なのだが、事が事だけに、急がなければならなかったのである。
この中で、1人だけ多くの人物の話を聞いていたのが、軍師ラフェリアだった。彼女に策があるのか、気になる表情をしているような、と昭代が気付き、
「軍師殿、軍師殿」
と小さな声をかけた。昭代の声に、ラフェリアは反応を示し、小声で、
「昭代殿、如何なされたのです?」
と軽いが、ここは発言すべきではないと言う顔をして聞く。それに、ラフェリアは、多くの家臣の意見を聞いてきて、それを纏めようと考えていたのである。
「分かっておりますが、ラフェリア様の意見を伺いたくて、このような事を言い出した次第でございます。」
それって、守秘義務違反ではないか、だけでなく、人の集中している邪魔をしているようで、大変迷惑ではないか。ラフェリアは、まるで、考え事を邪魔されたような子供みたいにほほを膨らませる。
それに気付き、一美は、議論の途中であったが、手で制し、
「軍師殿、どうした?」
と聞く、ラフェリアの様子がおかしい事に気付いたからだが。
「実は、私の考えがどう言うものかを聞こうとする者がおりまして…。」
と言葉を切り、
「それで、今までの方々の話を聞けないと言う状況が生まれてしまいます。ですから、私の意見は控えたいのです。」
と、ラフェリアが言いたい事がらを述べていた。一美はそれに対して、
「ここからの意見も、確かに重要なものであろう。だが、軍師殿の意見とて、それに勝るほど価値があるはずだ。自分を控えてはならない。色々と意見を述べてみたほうがよい。そう私は思う。」
と、ラフェリアがどんな考えを持っているのかを、一美たちも聞きたがっていたのである。
そこで、府と立ち上がると、
「実は、この戦は戦うべき戦ではないと考えております。」
とラフェリアが述べた瞬間、衝撃が走った。
「戦うべきではないとは、軍師殿! どう言う事ですか?」
と口々に、質問を浴びせる。それを一美は手で制し、
「まだ、話の先を見せていない中で、非難を浴びせるのは良くない。最後まで聞いてみようではないか、それでも、遅くはないと思う。」
と家臣たちに自重を求めた。
「おそらく、おどろかれている方が多いと思いますが、ここは、『大波』の政府ではなく、各地方にある地方軍との連帯が必要です。それに、今の紅巾軍は、自分達の生活圏を守れるのかどうか、希望は見いだせていないとの情報があります。彼らは常に不安におびえ、何時『大波』軍の攻撃を被るのか、それに怯えております。つまり、『戦わずして勝つ』には、彼らには常に不安が付きまとうはずです。つまり、その不安を最大限に利用するのが望ましく、彼らを如何に躍らせるかが、我々には必要かと存じます。彼らは、山東半島を拠点としているはずです。そこに、くさびを打ち込み、相手をかく乱させれば、『紅巾』軍の指揮系統はほどけた糸のようにばらけるはずです。」
と述べて、すっと席に座った。確かに、それもそうだ。
「実は、それについて軍師殿の指示で動いているもの達がいる。その時に、彼らが、どう言った反応を示すか、それがみものと言えるかもしれない。だからこそ、多くの者たちの意見を聞くときは、色々な意見の中から、すぐれたものを導き出す為に、時間をかけるのが得策だと言える。だから、軍師殿の意見があったとしても、その意見に反対する者は、その意見のどの点が、軍師殿と異なっているのかを指摘していただく事が必要だろう。その為に、反対の意見を述べる人も、それなりの論を持って、臨んでいただきたい。」
と一美は述べて、反応を見た。家臣たちもその話を納得したようで、ここに意見はまとまり、この広州を守る為に、撃って出ず、相手を持久戦に持ち込んで、疲弊させると同時に、『紅巾』勢力を切り崩す動きも、行おうとしたのである。

ラフェリアは、ため息をついていた。
「確かに、今までの考え方からすれば、私の考え方は、間違っているのでしょうか。」
と一美にため息交じりで話す。
「私も同じ事を想う事がある。だが、意見は間違っている、会っていると言うのは二の次で、どう言った考えを持っているのか、それを聞くのが今回、私達の考えそのものだ。だから気にしなくてよいと思う。」
と一美は、ラフェリアを励ましていた。確かにその通りだ。
一美のラフェリアの話す言葉に、統率する人物の苦悩と言うのがこれほど辛いものであると、改めて認識させた。
「そうだな、私も時々分からなくなる事がある。どうすればよいのか、ときどき迷う事もある。誰だって、経験した事のない場面に遭遇すれば、これで良かったのかと後々になって、考え込む。だから、決断する時は慎重に、慎重を重ねないといけない。これからだろう。これからだ。」
と一美は、そう言うと、ラフェリアを抱きしめていた。
ラフェリアの目から、大粒の涙があふれ、声を殺したものの、泣いていた。一美とラフェリアの絆は、堅く結ばれたものとなっていた。
しかし、考えてみると、このまま守り通すとラフェリアは考えていない。それにおいて、一美は、その部分を聞いてみたかった。
「所で、軍師殿はこのまま守り通すとは考えていないのではないかと、私は考えてしまうが。」
と、ラフェリアが落ち着いた所で、聞いてみる。
それに、ラフェリアは、
「ええ、守るだけではなく、攻めも見せて言った方がよいと考えております。やはり、相手も体力がなくなれば、兵力は衰えると考えるべきでしょう。」
と涙を拭きながら答えた。
確かに、それがどう言う結果になるのであれ、アウェーでの戦いに、『紅巾』軍の一部は慣れていないし、彼らとて、南方の気候に慣れていない。だからこそ、彼らも相当準備はしてくるものの、予想できない事に悩まされると、考えられる。
そこを突く事こそが、一美の考えそのものであり、体力を奪い、精神を徐々に崩壊させる事こそが、戦争を勝利に導く事で、広州を守れるのだと、確信していた。深追いしても、駄目だろうとはいえ、彼らにもそう言った事をやろうとする能力はある。最後に一矢報いたければ、そんな事をやってくるだろうと一美は見ていた。こうして、1ヶ月後に迫った『紅巾』軍の迎撃戦、つまり、「広州迎撃戦」が幕を開けるのである。

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