タイトル:広州迎撃戦 17

そんな夜に、広州一帯で多くの人々が不可思議な現象を目撃している。夜中に入って、広州コロニーを無数の黄金で光る龍が飛んでいたという話であった。この話は、次のようなものである。
一美が居住する地域、つまりダウンタウンから、多くの龍が放たれて、そして、四神の方角に行ったのだが、四神の地点が、宇宙ではどうなっているのか、それについての定義が定まったのは、この時代より遡りに遡って、惑星間大戦直後―P.W.0001年から―から話が始まる。
では、この四神とは、何かと言うと、中心に黄龍―麒麟―が存在し、南に赤龍―朱雀―、北に黒龍―、西に白龍―白琥―、東に青龍―青龍―があるといわれている。
しかし、これに基づいてどの地域を起点に定めていたのか、それについては、人類が誕生した地球が基準となることが確認され、地球から太陽方面に向かうのを西とし、逆に海王星などの方面に行く事を東と定めた。そして、地球の公転軌道―つまり、地球が太陽の周りをまわる軌道―の進行方向に向かう事を来たと定義し、公転軌道の反対方向、つまり、太陽の周りをまわる軌道とは逆の軌道の方向に入る事を南と定義した。これが、前漢時代、つまり、現在の世紀が惑星間大戦と呼ばれる戦争がU.C.―ユニバーサルセンチュリーと呼ばれ紀元2045年が開始年とされている―0698年から始まり、その後の戦乱を経て、新地球宇宙統一機構の時代に、定められている。
さらに、尾ひれつきだが、この新地球統一機構は、早くから代王という役職を立て、その後、国家名を『漢』と改めている。歴史上ではU.C.0490年にも、同じ名前の国家があり、そのために、『後漢』という名前が表記されている。
それを基準にして物事を言うと、この広州コロニー一帯を覆い隠すように、龍が待っていたと言う事に他ならない。それに、加えて人々がうわさをする。
「あの子供、何かをするぞ。きっと。」
と…。

その日からすぐの事、なんと、一美が作戦本部に来た時、多くの家臣たちが、一美のもとに集まっていた。
「どうしたのだ?」
一同を見渡して、一美がふと感じた違和感。それこそが、一美をどうしても守ろうとする家臣たちの熱意そのものであった。
「一美様、ご無礼を承知で申し上げます。」
と口を開いたのは、広州の守りを固める一人、佐々木まき絵であった。
「私たちは、この広州をどうやって守ろうかと、思案してまいりました。しかし、一美様は自分自身の身を犠牲にしてまで、この広州を守りたいとおっしゃられたのは、分かります。しかし、彼らははたしてそこまで寛容かと言えば、それも疑問に持たねばなりますまい。」
と口火を切った。続いて、あまり発言をしなかった人物が、次のように、口を開いた。
「そして、私たちは、この町を守るために、戦う事を決意しました。それに、私たちは、この町を守るために、戦闘をする覚悟もしております。いつでも、この身を犠牲にする覚悟もできております。」
と述べたのは、宮崎のどかであった。さらに、
「私たちは、一美様のためならこの命を捧げます。」
と述べたのは、近衛木乃香であり、その意見に同調するものが、端から端までその意見に同調していた。
一美が、戸惑ったのは言うまでもない。
「皆の者、落ち着いて聞いてくれ、なぜ、私がこの様な決断をしたのか、決して自分たちが弱いだけで判断したわけではない。私は広州の人々のためにと言う思いはある。だが…。」
と一美は、一同が落ち着くのを待ち、次の事を話し始めた。
「この投降は、こう言えばいいかもしれない。広州を守るために交渉に、出向く大きな理由は、この天下の様子を見に行くだけでなく、その中に身を投じて、その渦がどこまでなのかを確かめ、自分のものにして持ち帰る事にある。」
と述べ、続いて、
「それを、行う理由は、何かと聞きたくなるかもしれない。私は、天下を狙っているからだ。自分で、敵の懐に飛び込み、その実態を、自らで経験して、それを糧として、蓄え、それを、次の戦にぶつける。」
と述べた。この理由を、一美は次のように説明した。
「この理由は、『孫子』にこんな言葉がある。まず、相手を知り、そして、自分たちを知るという事が大事だ。今の私たちには、『大波』に対抗できる力がない。それだけでなく、知恵もまだない。ここは、相手をどう調べ、どうやって、相手を倒すか、それが問題となろう。そのためには、私が自ら、その場所に出向く事が必要だと言える。まあ、人質としての役目もある。それも考えの中に入れて、今は、攻撃をする時ではないという事を、肝に銘じておいてくれ。」
と言うのであった。これでは、多くの家臣たちは、ただうなだれたままであった。その中で、ラフェリアと紀子、穂積、麗、霞、クリフ、昭代、兼人、一光、宗治、凛、茜などには、話をしており、そのことを理解していた。しかし、他の団員達には、その事を説明している時間がなかったのである。だから、この様な事になってしまったのである。
金天寿は、次のように解釈していた。
(一美様は、きっと、もっと大きな乱世が起きると予測しているのではないか?)
と考えていたのである。それが、実際にあたるというのだが…。その時、そんな事を思っていたのは、おそらく、ラフェリアと紀子、それから、この天寿に凛、兼人、宗治ぐらいしかいない。
その中で、この様な考えを巡らせた文脈のみで巡らせたのが、天寿だけだったうえ、天寿自身も、一美が何を考えてこの様な発言をしたのか、分かったような気がしていた。

その中で、一美は考えた事を吐き出すと、
「確かに、君たちの考えている事は、私も十分承知している。戦って守りたいという気持ちが強い事も分かっている。たが、その思いだけで、その場所を守ろうと考えても、その力が合っていなければ、多くの人々を犠牲にする事にもつながりかねない。だから、ここは、堪えてくれ。」
と言葉を継ぎ、家臣たちを諭していた。
その言葉に家臣たちは、その場の空気は、温かいものに変っていた。あるものは涙し、あるものはうなだれていた。
ただ、一美の言葉は一同に納得がいったという感じであった。
「私たちは、これから、どうするのですか?」
と一人が問いを出す。それに、一美は…、手紙を取り出して、穂積に渡した。
「ここに、この後、君たちにするべき事が書かれている。これをじっくり、理解していったほうがよい。」
それについては、次の通りに書かれていた。
〈此処ニ書カルル事ヲ、厳重ニ守ル可事。
一、 第一義ニ戦ノ停止ヲ告ゲル事
一、 第二義ニ商団ノ運営ハ、穂積等重役代理ノ裁可ヲ受ケル事
一、 第三義ニ広州ノ人々ヲ守ル為、武具装備等ハ、成ル可ク隠ス事。
其ノ他、商団ノ事ニ就イテハ、以下ノ文言ヲ厳守ス可事
一、 議決ハ全会一致ヲ原則トシ、異議申シ立テハ、極力避ケル事。
一、 国家間貿易ニ関スル取引ハ、極力地域政府ト連携シ地域全体ノ利益ノ為ナラントスル事ヲ確認シ、実行ニ移ス事。
一、 新ニ人足、人材ヲ求ル事ヲ篤クセシメ、多数ノ人々ヲ導ク人材ヲ育ミ、生カス事ヲ怠ラ無キ様、努力ス可事。
以上ヲ此処ニ、下達致シ候。
太平元年 霜月十三日
下文  宛名:北田家以下家臣一同
差出  北田 一美〉
翻訳をすると、最初に、戦闘の停止、第2に商団の運営、第3に、できるだけ平静を装う事を訓示していた。さらに、他には、この6点を挙げた意味がいかなるものなのかと言う事を伝える為に、それに関する副文書を、書き添えていた。それに関しては、翻訳すると次の通りとなる。
〈第1義の戦闘に関しては、戦闘に入らない状態で『戦を止める』と言う事は、甚だ、遺憾だと思われているかもしれない。しかし、我々は今まで、『大波』との戦闘を極力避け、力の温存をしてきたが故に、今回の事をかんがみて、広州はもとより、周辺の力を温存させる為に、戦闘状態には突入してはならないと訓示したのであり、戦闘状態に入ってしまえば、直ちに、相手側にその真意を訪ねる事をしなければならない。そのうえで、相手に真意を伝える事を、最優先課題とする事が必要である。
続いて、第2義は、今後、自らに権威を見せびらかすため、反乱軍を捕らえたとして、私の身柄を送る事は十分考えられる。それゆえ、私の代わりとして、穂積を筆頭とする重役を中心に、私の代わりをしていただきたく、この事項を設けた。これにより、穂積や、父の武彦、母の小枝子にも商団の経営に加わってもらい。事業を円滑に進めていただきたい事を願うばかりである。
第3義の武器などを隠す事については、海外などの渡航を別として、敵意がない事を示すアピールであり、決して『武器を捨てる』と言う事ではない。時に、『時局は回転する歯車の如し』と言われる。それゆえ、敵の動向や、反乱の芽を敏感に感じ取る事が必要となってくる。ゆえに、多くのものは、情報に敏感になる事を勧めておきたい。
以下は、これから、皆様方に守っていただきたい事を、述べている。
第1点目は、全会一致の原則を重視し、異議申し立ては、全会一致で物事を決議する前に、よく話し合う事を重視する。これは、多くの混乱を招かない為の対策であり、さらに、家臣たちそれぞれの意見を吸い上げて、よく吟味して、どうすれば、多くの意見をまとめられるのか、よくよく、家臣たちと話し合う事が先決という事項に則った事である。話し合い決まった後で、異議を申し立てられてしまえば、その話し合いを、最初からやり直す必要があり、時間の制約がある我々にとっては、得策とは言えない。
第2点目は、国際貿易に関しては、地元政府と十分協議したうえで、時局をにらみ、貿易を行う事を求めていく事に努力をする事である。ただ、地元政府の態度如何によっては、独自の道を切り開く必要はあるが、できるだけ、政府との協力を取り付ける事が求められる。
第3点目は、商団の存続にもかかわる事であるが、新しい人材を受け入れる事は勿論、人材の育成、さらに人足の育成にも心を配る事が大事であると説いておきたい。なぜなら、人足は、多くの兵卒と同じ待遇であり、人材は、士官と同じ意味を成すのであって、その両方の教育を行わない限り、組織は機能する事が出来なくなる可能性がある。ゆえに、その点で優れた人材を登用する事は勿論、それを育てることも必要となってくるのである。
以上を以て、この訓戒としてまとめたものである。〉
穂積は、それを読み終わると、文書を机に置き、涙をこらえていた。
「一美様…、…………。」
ラフェリアも言葉を失っていた。ここまで、考えつくしていたとは…。改めて一美の言葉に、自分たちの役割の重さを痛感していた。その場に全員が立ちつくし、自分たちの行為の愚かさを、恥じるしかなかった。

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