タイトル:広州迎撃戦 18

そのころ、『大波』軍は、まだ南下をつづけていた。それにしても、どうしてか進軍が遅い。これに疑問を感じていたのは、川添環ぐらいであったかもしれない。
だが、多くの将兵が気づかない中で、一美の陣地に踏み込む、しかし、本当のところは、だれが敵なのか分からなくなっている中で、本当に、一美は敵になったのだろうか、だれが定義づけたのだろうか。それを考えてしまうと、一美は何を発しているのだろうか。
本当は、『大波』軍としても情報の見極めをして、情報収集をしているのかもしれない。そう思いつつ、彼らは兵を進めていた。
その川添環は、その部隊の士気を維持しながら、この戦がどのような結果をもたらすのだろうか、それを予想するのは難しいと、考えていた。
そうだとしても、一美は何を考えているのだろうか、それにしても、広州側からは、何の音沙汰もない。どうして、そのような事になったのだろうか、考える余裕すらないのではない中で、一美は、どのような事を家臣たちに与えているのだろうか、それが気になるところだ。
(それにしても、敵は一体何を考えているのか、まったくわからない。)
確かに、その通りかもしれない。彼らは、いかなることをしてでも、彼らの強引なやり方では、一美の本当の伝えたい事が伝えられないという状況になってしまう。
これでは、自分たちの首を絞める事になりかねないのではないのか。そうだとしたら、一美は戦を避けようとしているのではないのか。それが事実なら、広州は一戦をしない上で、敵に勝つという事を、実証しているのではないか。
そうだとすると、とんでもない罠に、はまったのではないだろうか。
そう考えてみると、彼らは、防衛のみにしか徹していない。なのに、戦争を仕掛けるという暴挙は、まさしく、気が狂ったとしか言いようがない。
(本当にそうだとしたら、これは大変な事になる…。それに、この状況に敵の考えは、どう変わる…。)
環は、敵将に戦いを挑むのではなく、自分に戦うのが筋と言うほうがよいのか…。そう考えて、一美の戦いとは何かと考えて、今までの紅巾軍との戦いを調べてみた。
これまで、貝のように閉じて、城門をこじ開けないようにしていた事を考えると、攻城戦では一美の部下たちを、うまくまとめている事が、分かってきた。これは、一美の人々に対する信頼を示している事に他ならない。
しかし、彼女に対する期待とは何か、それは、『中華国家の復活』という一言に尽きる。
まあ、そうだとしても、一美という少女、しかも、環も同い年なのにもかかわらず、この様に信頼を得ているのは、どうしてなのか、一美に及ばないと言うのが、この結論だった。

そのころ、防衛体制を整えていた広州軍側、しかし、当の総大将たる一美は、戦闘をできるだけ避けるために、投降するための準備を始めている。
それに対して、他の戦闘員は、できるだけ広州を守るために、兵の層を厚くして、防護壁を築いているような感じであった。
ただ、これは、単なる『降伏』ではないと、相手から広州を守るために、自ら進んで説き伏せる。それが目的になっているのだと一美は、多くの家臣たちに説いた。
「いいか! 私は、このまま投降する事なく、大波軍を引かせて見せる。私が帰ってくるまで、決して一兵も動かしてはならぬ!」
と命令を与えていたのである。
そのころ、多くの舞台は、長期戦に備えて、籠城において、いかに兵士たちの士気を高めるのか、その事に配慮しながら、兵士たちの様子を見るように、命令を与えていたのである。
また、外部から入る間者の追跡と取り締まりを強化し、紅巾軍残党や、大波軍の侵入を防ぐ、対策も行っていた。
確かに、紅巾軍の残党がいかなる攻撃をかけてくるのか、それを警戒しなければならないのは、当然の対策としてあり、紅巾残党軍が、大波軍を味方につけて、寝返ったと考えて、その対策も整えていたのである。
つまり、大波との直接対決を想定している事になる。ただ、想定しているのであり、決して直接対決は望んでいない。ただ、避けられない場合は、全軍守りを固めると言う事を、通達していたのである。
と言う事は、大波軍に攻撃の中止を求めても、攻撃の口火が切られれば、それに対応して、一美たちの軍隊は、即守りを固くし、長期戦に持ち込む。しかし、兵法書の『孫子』には、
「戦争は、長期戦になると不利となる。それは、相手に対する攻撃のみならず、兵士たちの士気や、兵糧などの多くの問題を発生させるからである。短期決戦に持ち込むのが上策である。例えて言うなら、弓を引き絞って、矢を放てば、最初は勢いがあり、木の板を楽々と射抜く事が出来るが、遠ければ遠いほど、その勢いは衰え、1枚の布すら通さないと言う事にもなりかねないのと、同じ事である。」
と述べている。つまり、どちらにしても、長期戦は、不利となる。また、籠城は逆の立場でいえば、攻城戦にもなるのであり、相手はおびき寄せなければ、勝負に勝利する事が出来ないと言う事に他ならない。
だが、そうだとしても、大波軍には着実に勝利できると言った自負がある。それが何か、実際に言えば兵糧攻めと言える手法を使う事であった。
それでも、一美たちが大波側の予想をはるかに超えた作戦を立てていた事を、知る由がなかった。

そのころ、福州では、勇作たちが協議を重ねていた。その中に、一人の少女が加わっていた。姓は北田、名は和子、実は、北田一美から見ると彼女はいとこに当たる。
実は、北田家には、一美と穂積の父武彦が、広州にいるのに対して、和子の父親、武信は福州を拠点とする広州商団福州支部を任されていた。
それで、一美たちは福州の協力を得る事が出来たのは、一美たちの協力者が、多くの商団の代表者と会見を交え、そのおかげで、一美たちとのパイプが出来上がっていたのである。
それに対して、大波側は何も対策を打っていなかった。だからこそ、これらがすべてが、大波の衰退を象徴していた。これが、大波の実態だったのである。
「さて、これから、どうするか悩むところだが、大波はどう動いてくるのか、それがまったくわからない。だが、彼らは、広州に照準を向けている。それが気になってくる。」
と勇作が口を開く。同時に一同は沈黙した。
「確かに、それは言わねばならないが。これでは、広州は火の海となるかもしれないぞ。」
と啓宗が、口をとがらせる。しかし、それも考えられる。
まだ、戦闘になるという憶測が、否定されそうになっているのにもかかわらず。そのような憶測が飛んでいる。
「まだ、戦闘になるとは決まっておりませぬぞ、兄上!」
と突っ込みを入れたのが、啓鷲であった。
「確かに、その通りであるが、啓鷲殿も落ち着かれたほうがよい。今は情報が錯綜していて、どうにもならないのが実態です。ですから、あなたの兄上とて、そのような事を言ったとしても、聞かぬはずです。」
確かに正善の言い分も、実態の通りである。それに、広州が狙われているとしても、実態は、広州だけではなく、福州、広西や雲南にも影響を与える事になるのかもしれない。
そのために、今は主だった動きをしない事が、望ましいというのが、今の彼らが出来るせい一杯の事だった。それにしても、一美たちはいかにして戦うのか、戦闘ではなく何で戦うのか、それが勇作には気になっていた。

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