タイトル:広州迎撃戦 20

ところで、そんな中で、世界情勢から取り残された国家があった。それは、日本と琉球の事である。この日本と琉球は、この当時から、海上封鎖をしていたのである。これは、中華の騒乱の影響を被らないためにも、両国が協議を行って、今回の議決に至ったのだと言うのである。
そして、それによって影響を受けたのは、東南アジア諸国であった。とくに大打撃を受けた国は、インドネシアである。
そもそも、このインドネシアは正確に言うと、パンジャビー朝インドネシアコロニー王国で、今までの「パンジャビー朝」や「インドネシアコロニー王国」も同じ意味に当たるのである。実際言うと、イスラム教徒が多数を占める国家で、「海東のペルシア」と呼ばれるほど、文化が花開いていた。そんな中、国家的には、「大波」を支援しているのだが、支援をしている「大波」では、諸勢力の乱立状態はもはや避ける事が出来ないと、判断して日本や琉球が、貿易を停止し、一時的ではあるが制限貿易体制に移管した為に、国家財政をやりくりすると言う手間が、かかり始めてしまったのである。
これでは、じり貧になるのは目に見えている。そこで、思い切って、他国との貿易、特に南方のオセアニア方面に足を伸ばそうと、手を出してみたのはいいのだが、いかんせん、相手も生身の人間であり、交渉は難航するのが目に見えていた。
そして、軍を起こし戦争へと向かってしまうかもしれない。それが、この国家が、日本などに戦争を仕掛けようとしても、それは、無理な話であった。理由は2つあり、ひとつは、兵站線が伸びきる危険性があった事、それから、戦費がかさむために疲弊が免れない事、それから、国民の理解を得られない事があげられる。
ところで、インドネシアはASEANコロニー諸国と頻繁に会議を行って、この国家に影響力を行使して対抗する国家は、越南とタイコロニー王国ぐらいであるから、この3国に挟まれた国家は、その微妙なかじ取りを強いられると言われている。現実問題としてはなかなかとらえられない。
それでは、この国ははたして、どこに行こうとしているのか。それがまだ分からないままだった。
この国の国民は、どちらに行くべきなのか議論を重ねていると言うのに比べて、首脳部は早くも開戦に動いていたのである。そこまでして、資源を奪いたいのかと言う疑問が、他に手はないのだろうかと、疑問がわいてくるほど、開戦決断は早かった。これは、どうしてなのか後世の歴史学者が指摘する事によれば、イスラム世界を忠実に守る国家だけでなく、宗教を政治にとりいれた国家は、貿易に関しても、自国の利益のみを優先すると言う発想が、頭から出てくると誤解されていたからで、この誤解は、宗教を脱した後も、続くと言われていたようである。
しかし、イスラム教は公共を重んじる宗教の一つで、決して自らの利益を優先する事は、考えていない。ある一つの考え方では、物量の豊かな人間は、貧しい人間に物を分け与えるという思想が根底にあり、決して独占する事にはならないからである。
むしろ、逆転発想するのが経済主義を掲げる国家であり、後に中華を統一した「明」は、経済主義と公共平和の両立を図る政策を、建国から半世紀をかけて行う事になる。ただ、欧州各国―とくに、後進国である北ネーゼルランド、スウェーデン王国、ロシア公国を除く―は、これに倣っていたが、東アジアに「明」、西アジアに「オスマン・トルコ」が、台頭すると状況は一変し、「明」や「オスマン・トルコ」の方針を尊重して、貿易政策の転換を図る事になる。
だが、結果的にイスラム圏は、長らく冬の時代に突入するのである。
ところで、その他の国家では、この事態を次のように見ていた。
「インドネシアは、失敗をしでかすか、それがなければ、運が悪いだけの国家だ」
と皮肉を言われていたのだから、国民からは、長年ため込んでいた不満を爆発させる可能性があった。そのために、その不満、いわゆる排外熱を出す役割を果たしていた事に他ならない。それであって、他国侵略となれば、この国家は世界各国から非難を浴びるのは、目に見えている。
それに、この事態でその被害をこうむるのは、国民である。その国民を不在にした政治をしていていいのかという声が、インドネシア国内から上がっていた。これは、国家の中でいかに国民生活が乱れているのかを、内外に示している事に他ならなかったから、そこに、他国が付け入ることも、できるような様子であり、その行為自体がなかったのは、この国にとっては、幸いだったのかもしれない。
そう言いながらも、確実に、世界の流れは「宗教×政治」と言う思想から、「政教分離」と「三権分立」が、進む近代世界に突入しようとしていた。その中であって、「宗教×政治」の思想を守っている国々は、内憂外患と言う重大な局面で、「近代国家」への脱皮を図らなければならなかった。

その中で、穂積はこの事件をいかにして解決するかではなく、この世界の流れに、如何にして乗っていくのかが問われていると、感じ取っていた。
そんな中で、穂積は朱蒙と万秀の部屋を出ると、すぐに歩き出した。出向いた先は、「麻帆良学園」である。しかし、此処の学校の33人の生徒たちは、一美が実質率いる「北田商団」に入る事を許されていた。実際に、この「麻帆良学園」ですら、「北田商団」の援助を受けて成り立っている事からしても、この生徒たちは、幸せ者だと、穂積には思えてきた。
そこに、まるで幼児のような体をした姉妹が、飛び出してきた。あわてて、後ろによけ、構えを取ろうとするが、二人は驚いて、まるで、「撃たないで」と身構えて、恐怖の色を隠す事無く震えて立っていた。
それで、構えを解いて、殺気も消した。その二人は、まるで妖怪にでもあった後のように、気が抜けたようで、そのまま地面に力なく座りこんだ。
(何か悪い事でもしたな…。)
と穂積は、顔を赤くして自分の行った行為を恥じた。
「お二人とも、怖がらないでください。私は、北田穂積と申します。姉の一美がお世話になっております。」
これに、二人とも驚いた。鳴滝風香と鳴滝史伽の二人である。さて、穂積に対しての反応は、
「一美様の弟?」
と風香が声をあげたくらいで、不思議な反応で穂積を見ていた。
「あっ、あの時の会議で、一美様に提案をなされている男の子?」
と史伽が、本人の心の内は…。
(同い年なのに、どうして、私は影が薄いのかなぁ。)
となるのかもしれない。だが、こうも思う。
(彼女たちには、縁が薄いのかの知れないな。)
と。
「彼女とかいるのですか?」
思わず核心を突かれた。顔がまるでゆでダコの様に、赤くなった。いないわけではない。だが、恥ずかしいのは目に見えているのである。
「いるよ…。だけど、言えない。」
だからと言って、この関係は、どう説明するのか。しかも、一夜を共にしている麗の顔が目に浮かぶ、
「実は…。好きな人がいてね。その人は、香港のコロニーにいた事がある。だけど、君たちとは、比べ物にならないくらい逞しい人なのさ。」
この「逞しい」という言葉に、麗の性格を込めて、彼は表現したのである。
「そうですか…。思い人が…。」
確かに、そう言われてみれば、そうなのかもしれないと、史伽は思った。
それでも、この穂積は二人にとってみれば魅力的な男性に見える。だから、そういう事になるとしたら、その効果は、龍ではなく、あの時の一夜にあると、穂積には、分かるような気がしてきたのである。
「私が、どう言うように見えますか?」
と聞いてみると、2人は、顔を赤くし、風香は、
「ダンディです。」
と答えた。
「お姉ちゃん! 少し、的が外れていません?」
と史伽は、的はずしの答えに、思わず突っ込みを入れてしまった。
まあ、確かにと穂積は理解しつつ、そう言われてしまうのは、やはり、あの時の事だと、思わずにはいられなかった。
それより、急ぐ事があったのだと、彼は思いなおし、
「まあ、先程の話は、言いとして、ネギ先生にお会いしたいのですが…。それから、君たちにも同行していただきたいのです。」
と促した。それに、2人は反応し、鋭い目つきに代わった。
「分かりました。参りましょう。」
と頷いて、歩みだした。


これから、広州をどのように立て直していくのか、一美は、それすらも描き始めていた。まず、弟の穂積を新しく当主に据えて、そのあとで、補佐する側近は、兼人、一光のほか、昭代、紀子、幸、優香、彩などを配置する。
これでよしと、一美は口にすると、霞にこれを持たせて、次のように、頼む事にした。
「霞殿。この文書を、軍師殿に届けてください。いち早く、紛争を解決できるように、するための体制を整えよと言う事をお伝えください。」
と、述べた。
一美は、この時から、自分には死が近付いている事を、意識し始めた。それは、「大波」に投降したとしても、それが反乱に当たると映るのは事実で、今までやってきた「大波」に対しての、「紅巾」軍討伐行為が、すべて無になると言う事を意味し、自分の命は、その時にすべて終わるのではないかと言う事を、意識し始めていた。
だからこそ、彼女は、それを意識して、この様な書状を手渡そうと考えていたのかもしれない。だが、彼女の命でしか購えないと言う事を、多くの人は如何に思うか。
人々は悲劇だと思うのか、それとも、致し方のない事なのだと思うのか、だからと言って、そうだろうかと思う人もいるのではないのか。
はたして、どちらが本当の事なのか。まったくわからないと考える人もいるのだろう。誰が一美を、責められるのだろうか。
そうなら…、人々はまだ目覚めていないと言えばいいのか。それが、彼女の考え方なのかもしれない。

その命令を受けた霞は、ラフェリアのもとに急いだ。それでも、一美は何を考えているのか、霞には分ったのような気がしていた。
一美は、この事態を自分たちと共に、若い世代に託すと言う事で、この国家に大きな変革をもたらすと言う事になる。それが、一美が考えていた事ではないのか…。
そして、霞それがわかったのだと言うのではないのか。それに対して、一美はそのために、一番信頼できる自分を指名してきたのではないのか。
そうだとしても、一美はラフェリアに何かを伝えたい。それは、自分たちが後にした広州をどうするのか、その布陣が書かれていると、考えていたのである。
そうだと確信し、霞は、ラフェリアのもとに走っていた。すべては、広州と、一美の為に…。

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