タイトル:一章 主要都市広州 9

それで、縁のない一美にこの剣が渡ったのか、その理由にある『龍』とは、それについて話を始めなければならない。
そもそも『龍』の話からとするが、『龍』は架空の動物で、その架空の動物になぜ、君主が関係するのかと言うと、中国の陰陽思想が関わってくる。五行思想の思想も取り入れている事から、正しくは「陰陽五行説」とも言い。歴史関係や、暦に関するものまで幅広く知られていたものである。しかし、現実世界で残ったのは干支だけであり、その上にある陰陽五行をもとにした十干は、あまり知られていないものとなった。
実は、五行には守り神がいて、東西南北を「四神」と呼ぶこともある。まず、南は朱雀と呼ばれる深紅の鳥で、北は蛇と亀を合わせた玄武、西に白い色をした虎で白琥、東には青き龍の青龍がいる。中心に居座るのが黄色、または金色の黄麟、あるいは黄龍と呼ばれるものが存在するのである。
西洋世界では『龍』をドラゴン(dragon)と呼び、悪の化身として扱うが、東洋世界ではそのようなことはなく、守り神的な性格を帯びているのである。
但し、黄色い龍が陰陽道の中心である事は分ったが、それではなぜ、黄色い龍と皇帝が結びつくのか、それも単純な発想で、世界の中心部から、つまり中華を支配した事だからという理由があるからで、中心部は土として表記され、次に土を構成する色(五色)が黄、星では土星としており、五行の中で中心を表すものとして、黄色、黄龍が用いられると言う事である。
それで、中国の北京紫禁城にも黄龍の描かれた壁画があったりする事からも、皇帝の守り神だと言うことの証拠である。
それゆえ、彼女がその龍を宿らせた法具のようなものであると言う事で、法具と一美がイコールなら、小枝子が一美を産み落とす前に見た夢が、真実であることを証明する事になるのである。

「それより、剣は…。」
と一美は言いかけた。しかし、友達を含めて3人は、起き上がった一美を見て姿勢を正して、正座していた。
「この剣は、持ち主があなたである事を証明したわけですから、あなたの自由にお使いいただければよろしいかと。」
そう言って、一美の反応を待った。
「…」
しばし、無言で考える一美、それで考え込んで、すぐに、
「それなら、この剣を持ち帰ろうと思っています。」
と言って、その剣をどうするか考えた。携帯できるのかと考えて、しばらくしてネックレスにしてみれば可愛いのではないかと結論を出していた。しかし、困った。
それをするすべがない。そして、剣を見てみる。すると、何も指示していないのに剣が、徐々に小さくなっていく。どうやら、一美の思考が直接剣に伝わったと言う事である。
「凄い。」
この一言しかつつぶやけない一美は、ネックレス状になった剣を見て思った。
「どうやら、この剣は意志を持っている剣のようですね。私の悩みも聞いてくれる気がします。」
と一美は言って、その場を後にした。

そして、帰るなり考え始めた。このネックレスが、自分を変えるのかと。となると、恐ろしいものに自分が引き込まれたのではないかと考えてしまう。
その目の前に、1人の男の子が現れた。小学校6年生ぐらいだろうか、その周りには、数人の男の子が、一美を睨みつけている。その他には女の子もいるが、女の子も一美を睨みつけていた。
(まいったなぁ。)
そんなに注目されていたかなと、一美は思ったが、
「この商い!」
とリーダー格の男の子の鋭い声がこだまする。しかし、一美は動じない。友達の2人は一美の陰に隠れる。
「2人とも離れて…、ここにいたら危ない。」
と耳打ちした。どうやら、危険だと判断した。
「商いだから何か?」
と一美は、問いを出して相手の攻撃かわす。攻撃と言っても口論にすぎないだろう。
「お前の親父さん達が、ぼろ儲けしているのだろう!」
明らかに先入観にとらわれた間違いが、リーダー格の男の子の口から飛び出した。
「ぼろ儲け? 否!!」
一美の声が鋭さを増した。あたり一面の空気が振動する。普通の一美の怒った声は、こんなに鋭さを増すはずがない。
あたりの女の子が、おびえた表情に変わった。あの剣の所有者となってしまったからか。
「世界で、唯一ぼろ儲けしているのがどこかな?」
と問いを発する。それにリーダー格の男の子は、歯ぎしりをしたかのような顔になる。
「誰かと言われれば…、分からん!」
と言葉を濁してしまった。勢いがない。
「わたしの父が運営している商団とて、今は経営状態が悪い。売り上げたもののほとんどを、国に持っていかれてしまう。残りものを従業員で分け与えるだけで精いっぱいだ。それをぼろ儲けと呼ぼうか?」
周りの男の子たちは睨むのをやめるしかなかった。
「国の保護を受けているイスラーム商人は、この世で一番の金持ちと言われている。国の政策によって、不公平な商いが行われていると言うそうだ。だが、子供にはそのような差別があってはいけない。そうではないか?」
確かに的を射ている。
「先入観と言うものは怖い。それゆえ、正しい知識がなければならない。」
大人も納得している。その中で、リーダー格の男の子が拳を振り上げ、一美をめがけて撃ってきた。侮辱されたのだろうか、頭に来て、と言う所だろうか、吸い込まれるかに見えた。
しかし、一美は反射的に後ろにのけぞった。なぜか体が動いたのである。その次に、両手を交叉させて、姿勢を戻さず、それを支点にして時計回りに半回転し、右側に位置をして、防御の構えを取った。
さらに右のストレートパンチが一美の顔をめがけてくる。しかし、そのパンチは空を切ると同時にリーダー格の男の子の体が、宙に浮いて崩れた。
とっさの早業、そのまま地面に叩きつけられる。
「って。」
足をからませたおかげで、なんとかなった。リーダー格の男の子は驚いた眼で、一美を見た。こんな事が出来るとは…、周囲の目はその目である。その男の子に手を差し出し、握って、体を起こす。それは優しい目であり、慈しみの目でもあった。そして起こすと歩きだす、友達はすぐに駆け寄ってきた。
「大丈夫?」
と聞くと、一美は頷いて、
「大丈夫よ。」
と答えた。あの時の鋭い声がうそのように、
「名前はなんて言うの?」
と一美に聞く。
「北田一美だよ。あなたは?」
友達の一人に話を振る。
「小田優香。」
と一人が答えた。そして、もう一人は、
「クリフ・エル・ヴィ・フィリア。こう見えてもエルフです。」
と答えたのである。

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