タイトル:第三章 北田一美 11

その後、寄港地に戻り、試験は終了となったのである。
「どうでしたか? 何かありましたか?」
心配して弟の穂積が、来ていたのである。穂積を見て、一美の眼に涙が浮かんだ。なぜか、彼を抱きしめてしまったまま、動けなくなった。相当な恐怖に襲われた一美が、その悲しみをいやしてくれる相手を、探していたのかもしれない行為だった。
しかし、弟本人は、迷惑顔になっていた。
「ね、姉さん! 姉さん! 何があったのか分からないけれど…。」
それが、彼女には、
「ごめん。怖かったの。何も言わないで。」
一美は、そう言って、弟の体から離れようとしなかった。
(想像もできない怖さに、襲われたのかもしれないな。僕だって、戦うと言う事になると、足がすくむ。)
彼はそう思っていたのである。
「それより、戦闘で海賊軍が、戦闘不能となった機体を、どんどん破壊したみたいです。これによって、海外から批判非難を浴びる可能性が高くなりました。」
と新次郎が、現実に引き戻す。
それは、あの破壊行為自体が、大変な事になってくるのではと考えてしまう。しかし、それでも、彼らの事態を超える機体が出現した事で、情報に混乱が起こっていたのだと言えるだろう。
それから、どうしようか、再びメンバーと話し合いを行う事にした。それは、この後の試験の事である。
「それよりどうするのですか、このままでは、公海試験となりそうですよ。」
新次郎の言うとおりだった。確かに、今の状況は悪い方に傾いている。
「悪い状況にあるな。このままでは、露見するのも時間の問題となる。」
一美の顔は、難しい顔になって、メンバーに言った。全く、何が起きてもおかしくない状況にある。それだから、この状況を何とかしなくてはいけない。
一美の脳裏に去来したのは、計画を法律家である原一光の父、原義光と話した事である。
軽キ場合ハ、無期懲役。重キ場合ハ、絞首刑トス。
と言う言葉が頭に残っていたからだ。もし、攻撃用の戦闘機兼戦闘用ロボットを作ると言うのは、反乱に等しい行為とみなされていたからだ。
それが頭に残ったのである。故に、死と隣合わせだから、公海試験は避けたいところだった。

しかし、事態はその様な方向には転換しなかった。この事件について、責任を公にされては困ると意見をしている人物がいたからである。
人物の名は、天瀬勝弘であった。彼は、慶州の出身者で地球との交易路の中間点に当たっていた所に、勢力を置く上杉家の文官の一人だった。
彼は、
「確かに、海賊の掃討は大事でしょう。しかし、戦闘をしないロボットまでも、破壊してしまうのは、やりすぎではありませんか?」
ときつい意見を述べたのである。
これに、その行為に至った人物は、弁解するものの、追及はおさまらなかった。それは、この意見を主張しているものは、中華族との交友関係を築かなければ、国に対する信頼は揺らぎ、そして、自らの崩壊すら招くと、断言しているからである。
つまり、自らで、自らの首にナイフを突き付けているという主張に他ならない。
「だからこそ、彼らの力を借りて、武装を強化するのです。」
と主張した。しかし、この事が、後々、中華帝国を築く上で、重要なものとなってくるのである。
それは、天瀬勝弘の所属している慶州が、事あるごとに重要な役割を果たす事につながってくるからで、一美の運命すら握っていたのである。
もし、この助言がなければ、一美は、反乱を指揮した人物として、殺されていた可能性があり、一美自身のこの後の人生は、なかったのかもしれない。
そして、君主となる事も、さらには、一国を統一することも、なかったと言われてしまう。
一美は、不思議な縁で慶州と関わる事になる。この慶州の領主である上杉家が、どう言った関わりを持つようになってくるかは、後々の話として、この事態が収まったことに、一美はほっと胸をなでおろしたのである。

それから、数日間の休暇をもらって、一美は普段通りの生活に戻った。しかし、あの出来事に関しては、言いきれない怒りを感じていた。
なぜ、「大波」は戦闘が出来ない兵を殺すのか、そして、何を考えて、この国を動かそうとしているのか、この国をどこへ向かわそうとしているのか。
それから、自分自身が、どういう運命をたどるのか。それが気になったのであった。

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