タイトル:「広州軍」北田一美 29

その頃、上海コロニーでは、その攻撃におびえて脱出した市民以外は、平凡な生活を送っていた。主に、多くの人々は、支配者が変わっても、何事もない平凡な、生活を営む者が少なくなかった。だから、彼らにとって、支配者がどうであれ、関係のない事だったのである。
それでも、周辺都市が徐々に調略されて、陥落すると言う知らせを受けるごとに、人々はパニックになったのである。実はその間に、多くの都市は、『紅巾』軍を支持しており、『大波』軍にとっては、不利な状況が続いていた。
それゆえ、上海にいつ攻撃があるかまだ分からなかったのである。とある新聞には、
〈何時激突があるのか? 上海攻防最前線
事実、上海の様子は静かさのものである。言えば、静かすぎて不気味と言うしかない。このような状況では、何が起きてもおかしくない。
8月24日の段階で、多くの都市が『紅巾』勢力に同意すると言う事態が起きている。なぜに困難事が起きているのか、全くと言っていいほど想像ができない。それに、多くの州が『紅巾』軍はどのように攻めてくるのか、全く分かっていない。 (記事:幸田 藤次郎)〉
と言うような書き方がされていた。
どうしてなのか、これでは、大変な事態が起きても、おかしくない。そして、10日後の9月5日に、事態が急を告げた。それは、周辺都市の軍隊が一気に、上海コロニーに攻め込んだのである。
その攻め込んだのが、一番近くの無錫の紅巾勢力だったのである。それに因り、周辺地域の総攻撃を浴びた上海は、上へ下への大騒ぎとなってしまったのである。
その知らせは、風に乗って、広州、福州などに飛んで行ったのである。
そして、その知らせは、一美の耳に届いた。その攻撃から1週間後の事で、すぐと言うわけではない。しかし、一美たちは、数日前で予想していたのである。それは9月に入る前の8月30日の事である。
「とりあえず。この事態は、大戦になるはずだ。これは1週間やそこらの話ではない。1か月、いや2か月もかかる可能性がある。それで考えてしまうと、この国家に大きな影響を与えるかもしれない。それは、1年どころではなく、1年以上かかるだろう。」
一美はこのように予想していたのである。もちろん、攻撃線は長期化を見せていた。1週間はこのような状態である。
9月12日になって、多くの国家との貿易が停止された。理由は、上海攻撃が各地に影響を与え始めたのである。それが、貿易停止を各国が勧告した事から始まったのであるから、『大波』にとってはたまったものではない。それに、第一の貿易相手国、日本コロニーからの勧告が始まった事によって、多くの国家が、それに合わせて、貿易停止に動き始めたのである。だからこそ、経済的打撃は避けられない。
これでは一体どうするのだと、多くの家臣たちから、異論が噴出しまくっていた。どうしてこういう事態に陥ったのか、それに対して、彼らは対応していくには、他の州の軍隊を使って、抑え込むと言う事が望ましいと考えていたのである。
つまり、周辺にある『紅巾』勢力の中にいない州の軍隊を使用して、『紅巾』勢力を黙らせる事が、大事だったのである。
それに対して、一美たちは、迷惑と言っても過言ではなかった。

「なぜ私たちが、このような事をしなければならないのですか?」
昭代が、抗議の声を上げていた。それもそのはず、彼らは、このような状況を歓迎していたわけではなかったからだ。
だからと言って、これは命令で逆らうことはまず言って出来なかった。彼女も納得などできそうで、できないのかもしれなかった。
「私とて、同じ思いだ。なぜ、同胞を殺す事にならないといけないのか、それは疑問に思う事が大きい。しかし、今の状況では、国家として『大波』は大きな岐路に立っているだろう。彼らが『紅巾』軍を取り込むか、それとも、踏みつぶすか、それが、彼らにとっては悩みどころだろう。だからこそ、彼らも、命令を出して、いち早く『紅巾』軍におとなしくなってもらいたい、と願っているのかもしれない。」
一美は、そう分析していた。確かに、今の状況で『大波』は、どこと組むべきか、迷っているのではないだろうか、と一美は考えていたからだ。
だとしても、彼らはどう考えているのかが、全く分からない。それを考えていくと、一美はある事が気になり始めていた。それは、南昌の基地に『紅巾』勢力がいるかどうかである。
これで、大きく変わるだろうと一美は考えてしまった。

実は、その予測は当たったのである。南昌基地では、考えていたのより、大きな『紅巾』勢力が、潜伏していた。それをキャッチしていたのが、福州にいた福州防衛前線部隊である。
その報告は、福州にも届いたのである。
「おそらくですが、我々の考えている事とは、異なるかもしれませんよ。」
と孫嬪は言ったのである。これは、どう言う事か、考えていくと、孫嬪の指摘したのは、この集団は、今までの『紅巾』軍とは異なり、主に、別の考え方を持っている組織ではないかと、考えていたからである。
だが、それが本当なのかどうかは、孫嬪の予測なので、当たるか外れるかは半分半分であり、信用してよいかどうかは、難しい。
それに現地の情報が、どう言った事になっているのか、分かっている事を、孫嬪は書きだしていた。
1. 今までの『紅巾』勢力とは、異なる動きをしている事。それは、非常に不気味な所である。
2. 彼らの考え方は、今までの勢力とも相容れないものの可能性もあり、何を考えて行動しているのかが、まったくもって、不透明である事。
3. この軍隊の組織は、一見、各個体がそれぞれの地域に散布しているように見えて、実は、まとまりがあり、魚麟の陣に近い。
このように、もしかすると、多くの勢力に言える事ではあるが、彼らは、それぞれ考え方が異なるように見えて、根柢の考え方がぶれていないのではないか、そして、それが大きな組織を作り出す。
おそらく、今の一美たちに欠けているのは、それだと認識していた孫嬪は、すぐに一美に、こんな所を認めた。
〈言上仕り候
南昌の基地に於いて、見聞した人材の話によると、南昌にいる『紅巾』組織は、今までの紅巾組織とは大きく異なり、多くが散らばったまま、潜伏している事が分かってきました。そこで、言上いたしますが、我々は彼らを、根本的な思想の上では、個々によって異なると判断してきましたが、この事態を見る限り、彼らには、個々と言う考え方で動いているのではなく、組織として動いているのではないかと言う気がしてなりません。一美様はどのようにお考えになっていらっしゃるのでしょうか、その点について、ご意見を求めたく存じ上げます。恐々謹言   孫嬪〉
これを、商団の船を通じて、広州に送ったのであった。

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