タイトル:「広州軍」北田一美 31

それで、例の3人が、ちずるを取り囲むように配置されていた。綾音が、
「あなたは、どうして、この国を変えようと立ち上がったの?」
と質問をしてきた。ちずるは、それに対して、
「あなたは、この国家の行く末をどう見ているのです?」
と質問を返してきた。それに綾音は、
「確かに、あなたの言う事も、一理あります。その前に、あなたは、この国の行く末をどう思っているのですかと、返したいのですが…。」
どうも、ちずるは眉を逆立たせるような、しぐさをしていた。自分から言わなければならないのか、そう言われ、意見を求めた2人に対して、
「分かりました。この国の行く末は、まさしく、『鼎の軽重を問う』ものが多く、それは天下の乱れる如きと言えます。故に、この国家の行く末は、『麦秋の嘆』となりましょう。」
と謎かけで返して見せた。それを綾音は、
「野心を抱くものが多く、それにおいて天下は乱れ、『大波』は、滅亡へと進むと言う事を言いたいと言うわけですか。」
と、その質問の意味を的確述べた。
「正解です。私も、同じ考え方をしております。この国は滅亡に向かって進んでいると考えるべきです。だからこそ、渡したちは、その滅亡に向かっている『大波』に引導を渡し…。」
それに、綾音は、
「では、あなたは…、『大波』を壊して、その後で、中華族に因る国家を造ろうと考えているの?」
驚いて声を上げた綾音に、ちずるは、
「確かに、それは今の状況を反映して、『大波』を壊す事が出来るのか、と言う疑問は残っているかもしれません。ですが、我々は、中華族としての自覚を持たなければならないと言う事です。それからが全ての始まりだと言えます。大部分は、中華族と言う前に、『大波』国民と言う肩書があると言う事で、安心してしまっているのです。それゆえ、その前に、自分たちの民族は、たくさんのしがらみに操られてしまい。今のような状況を作り出してしまいました。故にですが、私たちには、それを打ち破るただ手が必要になります。それには、自分たちが、『大波』国民である前に『中華族』である事を、自覚し、それを主張する事が大事だと言えます。それには、『大波』を倒して、中華族の為の国家を形成する事が、大事となるはずです。」
とちずるは3人を前に、演説調のような形で、発言をしていたのである。それは、一美の考え方を前に押し出すかのような発言をしていたのである。
「それでは、あなたは、『大波』を倒し、新しい国家を形成すると言う事ですか?」
その問いをしたのは、相葉昴平であった。それにちずるは、
「確かにその通りです。それは、我々には想像の付き難い事かもしれませんが、それでも、我々の考え方は、代えてはなりません。それは、この国が、今までのように、イスラム教の支配下におかれるような、事態にはならないからです。50年ほど前の宗教法則の改正後、我々は肩身の狭い思いをしておりました。それは、イスラム教と政治を融合してしまった事に因る波が、我々に押し寄せてきたという事に他なりません。それゆえ、彼らの思い通りにさせてはならないと、中華族は必死の抵抗をしているからです。それが、『紅巾』軍だと言えるかもしれません。しかし、彼らの考え方を、探る事も必要かもしれません。」
だからと言って、それが、一美たちの考えとは、限らないと、綾音は思っていた。しかし、それを否定するようにちずるは、
「だからと言って、一美様の考えを読んでおりますと、私の考えと似た部分があると、感じておりました。だからこそ、私は、一美様の元で直接話を聞いてみたいと思っておりました。それに、一美様はチベットに向かっておられると、お聞きいたしました。それも、他の国家の要人から指南をいただく為ではなく、国家の行く末がいかなるものかを、他国の視点で見ようとしたと考えるのが妥当です。一美様は、それをしようとして、チベットに赴き、情報だけではなく、彼らから援助を得たのかもしれません。」
と、一美がチベットに出向いた目的を、指摘したのである。
実は、それを綾音と、昴平は父から聞こうとして、聞いていなかったのである。
「あなたは、どうして、一美様の考えを、ここまで深く分析できるのですか?」
それが、謎である。実際、ちずるは政経雑誌を読んで、一美の名前を知っていた。しかし、一美の動向は知られてはいないはずである。それなのに、なぜ知っていたのかが、3人には疑問に思えるのである。
「まあ、伊達に年をとっていないけれど…、母が、雲南州で旅館を営んでいるから、そこから情報を仕入れているのよ。」
綾音は、「伊達に年をとっていない」と言う言葉に、妙な引っかかりを覚えた。なぜ、そう言ったのか、それが、綾音には分かりづらかったのである。
「それより、私の年は、別に覚えなくてもいいよ。」
と、言った本人は否定したが、どうして、その様に否定もするのか、全く分からないままだったのである。
「何か隠していない? 『伊達に年をとっていない』と言うのはどう言う事?」
楓は、突っかかるように話しかけてきた。確かに、気になる所だ、高校生として体つきは、高校生以上と言うべきものである。それに、頭脳も高校生をはるかに超えている。どう考えるのが良いのか、全く分からない。
3人には、その謎の少女が、高校生の姿をしていながらも、高校生とは全く違うと言うもののとらえ方、考え方を持つ人物の正体と言えるものに圧倒されていた。考え方も、何もかも全て、3人の知恵をもってしても、越えられない壁であった。

その頃、上海の攻撃が始まってから、すでに1週間がたち、現地上海からは、多くの情報が北京に送られてきた。それは、アブドラ・アル・シラム・ムハンマドが率いる軍にも情報は届いたのである。
「各位伝達されましたる情報に因りますと、『紅巾』軍は上海を攻め始めてから1週間、何も動きはないとの事です。」
と伝達通信兵が、伝えた情報を、ムハンマドに伝えた。
「して、数はいかほどだ?」
と静かに、短く聞いてみた。
「10万ほどです。」
と通信兵は答えた。
「分かった。しばらく休んで、体調を整えよ。」
と言い、頷いた。そのまま、通信兵は、部屋を辞した。
「どうなるでしょうか、まさか、我々の到着を待って、攻撃をするというのでしょうか?」
と直属の部下である、アリー・ラフード・ムハンマドは、気になる事を、述べてみた。
「いや、攻めるとしたら、今しかないはずだ。なのに、ゆっくりしているのは、どうもおかしい。自軍だけは動いていないと言うのは、理解できない。情報を集める事によって、軍の譲歩を知る事が出来る故、まだ、分からない事が多いから、できるだけ情報を集めよう!」
と檄を飛ばすかのように言ったのである。
それに対して、上海との連絡は密にしている。それで完璧だったはずだ。アブドラ・アル・シラム・ムハンマドは、そう考えながらも、ふと、情報すら求められる可能性があるのではないかと、考えていたのである。

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