タイトル:広州迎撃戦 13

それにしても、一美は、まだ息が上がったまま、ベッドに転がっていた。何度、兼人の体を受け入れたのか、数える事は考えていなかった。
すでに、2回か、いや3回かもしれない。しかし、これほどまで、龍の力が彼の中に浸透していたとは…、一美には信じがたいものとなっていた。それにしても、彼自身が驚いているのかもしれないと、一美は思っていた。
そう実際に、驚いたのが兼人本人であった。まだ、体力が残っている…、これは、一体どう言う事だと、彼は思っているに違いない。
彼の気持ちを思いながらも、一美は眠りについて忘れる事にした。それに、やるべきことはたくさんあると、そう言い聞かせていた。
それに、兼人は一美に対して、自らの愛する人は一美だと言いきったのだ。だから、後悔などしていないし、それが正しいと言うわけではないものの、自分で選んだ道だからどんな事が起きても、自分の責任を全うすると覚悟を決めたと考えていた。
兼人も一美も、お互いの考え方を尊重し、あまり干渉をしないで、付き合っていきたいと考えていた。そう、それは一生添い遂げると言う事に近いものでもあった。
「兼人…。」
一美の声に、兼人が反応して右隣にいた一美を見た。
「どうしたの?」
その声で、一美は再び、顔を赤くした。
「兼人、私はあなたと一緒にいる事ができれば、幸せだと思うの。だから、私はあなたを離さない。だから、ずっとそばにいてほしいの。」
一美は、甘い声を出して兼人の瞳を見つめ続けていた。その時が、一美にとっては、子供の時間が終わる事を感じていた。
つまり、これから自分の責任で、全てを決めていかなければならない立場に、立とうとしていたのである。
「一美…。」
と声がする。顔を向けると、兼人は、笑顔で一美を見ていた。
「兼人、私の顔が、そんなに見たいの?」
とわざと口にする。確かに、何時までも、愛している人の顔を見たいものである。しかし、それも、時間に制限があった。
兼人は、こうも思う。女とはこのようなものかと、彼はそんな事を考えていた。まあ、誰にでもある酸っぱい感じであり且つ甘い味、それとはレベルの違う甘味としびれるような苦さを同時に感じていた。
それにしても、2人はこの時間をできるだけ長く、感じ取ろうとしていた。そう、2人には時間がないと考えていた。実際、大波軍が新発していたたと言う知らせを聞いたからである。
「兼人、先ほど軍師殿から知らせが入ってきたの。」
それに、兼人は顔を向ける。
「ついに、大波軍は私たちを、狙い始めたわ。どうしてもこの州をほしいと言う欲がある為に、出師を始めたらしい。だから、私たちは、この街を守ろうと考えている。その為には、今までよりも大がかりな、城攻めを敢行するかもしれない。」
それは、このような事だった。今まで非正規軍として動かしていた「紅巾軍」とは対照的に、正規軍として動く大波軍は、大胆な行動を取ると同時に、そう問う戦略を練り上げてくるのかもしれないと、考えていたからである。それで、2人にとって時間がないと言う事は、同時に多くのやるべき事が残っていた事とイコールであった。
「さて、打つべき手を打たないと、この場所は狂信的な民に踏みにじられる。」
そう言うと、一美は、恋人の前で見せる顔ではなく、国を守ろうとする戦士のような顔をして、軍師ラフェリアに家臣を集めるよう命令を出した。

商団の大会議場を借りて、所軍人たちが集まっていた。大波の軍職を辞任した友沢、商団の船団を率いていた大種光弘、和磨允人、積司香澄、升副一豊を加えると、会議場には入らぬほどの数に上った。議題は、広州の措置を如何にするかである。これにこだわった理由は、二つあった。1つは目の前の『大波』の襲来、2つ目は、長い目で見て、広州を貿易都市としかつ、この後の中華戦線の拠点とするにはどうすればよいのか、と言った部分をどう解決していくのか、その解決策をいかようにして決定するかにあった。これを説明した一美は、
「さらに、もうひとつ加えるとすれば、今後、私達の戦いは、対紅巾から、対大波に変わっています。これに対抗するにはいかにすればよいか、と言う長期的な、戦略も要求されていると考えたほうがよいでしょう。」
と付け加えた。
最初に口を開いたのが、その場所に出席していた魔法学校の教員、ネギ・スプリングフィールドで、
「まず、これからの長い目で見るとすれば、越南とタタールの動静を探る事が重要です。それに、2か所に同盟とは言えませぬが、盟約を結ぶことが必要かと存じます。」
このタタールとは、北京から北西のゴビ砂漠地域にあるオーライト因り、さらに西に入った宙域のタタール宙域を指し、玉門より北側、つまり、内蒙古自治区の北西側の宙域とされている地域に当たる。
主に本拠はダランザダガドコロニーであるが、大波政権全盛期に、オーライト連合軍に因りダランザガドが攻略されてからは、西の地域で活動を余儀なくされていた。1つ踏み外せば、ウイグル神魔コロニー王国にハミ、大波地域の国境に近い安西各コロニーと、オーライトの勢力下にあるウイジン、その系列勢力の拠点オンギ、アルタイが常に目を光らせていたのだから、彼らからしてみれば、中華族勢力と組まない理由は皆無で、中華勢力と組んで、大波を脅かしたいと願う民は多かった。
だから、彼らの動向を注視せよとネギは述べたのであった。続いて、
「恐れ入りますが、よろしいでしょうか、私も、一つだけですが、述べたい意見がございます。」
と進んで述べたのが、野武幸である。
「幸さん。お願いします。」
と一美が許可を出すと、
「では、この事態ですが、紅巾軍が仕掛けた工作やもしれません。それは、我々が紅巾軍を迎撃していた時に、紅巾軍は従わないものに対して、容赦がないとさえいわれておりました。つまり、我々と大波の中互いをさせれば、天下を収める事が出来ると、紅巾勢力は確信したのではないでしょうか?」
そう言う考え方が、あったとしてもおかしくない。一美もその事をあるだろうと見当はつけていた。
「確かに、これは考えられる事だろうと、私も思っておりました。ただ、実際に、出師の標的が私たち、なのかどうなのかがはっきりしておりません。故に、大波軍自体からの情報も必要です。」
と、口にした。
確かに、今回の軍事遠征で、標的としている国家があるのかを見極めたほうがよいと考えてみたのである。
「前に、進むも地獄、引くも地獄と言う状況ですね。」
と感慨深げに、穂積が言葉を漏らした。実情をもっとほどく言ってしまうと、穂積の言葉が当てはまる。
「しかし、そうかな。今はただ動けないだけで、何とか残る道はあると、私の目には見えますが。」
と述べたのは、それとは対照的に物事を見た紀子であった。確かに、進退きわまっている状況ではないのにもかかわらず、「進むも地獄、引くも地獄」と言う言葉が当てはまるわけではない。だが、長い目に位置を変えると、彼の言う事が明らかになってくる。このまま何もしなければ、袋小路に追い込まれると、示した事に他ならない。
その為に、長い目で見ると、大波は目先の利ばかり追求しているとしか見ようがなく、それに対して、他の勢力も同等ではないのかと、疑いようのない争いをしていると言うのである。
それを考えれば、それらが積もりに積もってしまえば、共倒れとなる。それは何としてでも避けよう、と考えている所ではないだろうかと、この会議で達した全体の意見であった。
「私も現実を見る目が足りません。それゆえ、私は、実情を見んが為に、敵の捕虜となり果てても、此国の行く末を、確かめてみたのだ。今は、対決する姿勢を出してはならない。」
一美は、決意を固めて、家臣たちに語った。

それに対して、大波側は予想しえない事態に直面していた。実際、大波側の公式文書では、中華側に与しそうな部隊の出動自粛を求めたが、それに因る反発で、北側の情勢があわただしくなってきたのである。これでは、いわゆる内憂外患と言うものに等しい。実際にチベットコロニーから伝わった話によれば、当時のロシアコロニー大公連合王国(後にロシア公国と国名を変更している)が、モンゴル北方地域で、活動を開始した事に因るものであった、と言えばいいのかもしれない。
だからと言うものの、彼らは、領土を欲していたのかと言う疑問が残るが、それは間違いと言われる事が多い。なぜなら、彼らが欲していたのは、人材と港である。
それが、一美達に、この時点では、影響を与えると言うのではなかったが、このロシアの存在が、今後大波の命運のみならず、ヨーロッパではオーストリア「神聖ローマ」コロニー帝国に大打撃を与える国として恐れられるのは、一美が、明を建国した時と同時に登場する君主ピョートル1世(ピョートル・アレクザンドラ・ニコライ)の治世の頃であり、まだ7年の歳月が必要であった。
理由は、シベリア宙域には多数の部族が存在し、ロシアコロニー大公連合王国と名乗った理由が、当時のシベリアを含めたロシア地域の不安定な政治状態を表していた事にあり、ドングリの背比べの如しと当時の書物が記していたとおり、「大公連合王国」とは名ばかりの状態でもあった。
この時点では、影響を与えると言うのではなかったと記したのは、先ほどの事情がからんでいた事に他ならない。
とすれば、一体、どこの部族が、中華地域の北部すれすれを、わざわざ狙って、侵入したと言うのだろうか。
ある見解として、鮮卑族から分かれ、北方の「渤海」を建国した民族が、侵入したと上げる学者がいる。彼が見解として示した理由は二点あるが、一点目は、大波側の公式文書で書かれていた地域の中に、「建州」という文字が何度も登場する事。二点目は、その国と近く結び付くのが、シベリア沿海州宙域であり、その近辺を荒らしまわっていた海賊と、好を結んでいた書状が見つかっていた事である。
一点目は、「建州」と言う文字が、文章中に10回ほど登場したと言う事である。当時の建州は、沿海州宙域の区画で、ロシア公国の領土になった後は、沿海州ではなく東海州と区画名が変更されている。その為、大波から明にかけての動乱期、この地域にもロシア系の人々が、移住してきた可能性があり、その他にも、鮮卑族から分かれてきた女直族(後、女真族と呼ばれる有名な民族)と協力して、大波の北側を脅かし始めた、という見方が強くなっているのである。
二点目は、海賊の存在である。この当時の大連コロニー近くの村々が襲われた、と言う報告が後日に記載されていた事で、その可能性が濃くなった。その村々の人口は、下手をすると1万人近くに達する上、海賊に因って殺害された人の数によれば、4000人と言った記録が残っていると言うのである。
ただ、不可解な部分が多く、断言が出来ないと言うのがほとんどであり、明時代の大英大帝が即位してから10年後、P.W.1627年に北方地域の大調査が行われているのである。
しかし、大波にとっては鼠が出たと言う話だけで、この事態については、深刻に考えていなかった。

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