タイトル:広州迎撃戦 14

だが、そう言われても、今の状況は飲み込めるものではない。北虜南倭状態に近い事が興っていたのだから、彼らにどうする事が出来たのかを問うのは酷であるかもしれない。それでも、彼らは、必死になって抑えようとしていたのかもしれない。その理由は何か、彼らの誇りともとらなければならないが、彼らが、死守しようとしていたのは、此国の宗教と、自らの権益だった事には間違いなく、彼らは、着実に中華族の権益すらも利用しようとしていたのである。
それ故、大波政権の国家予算のうち多くが、中華族で支えられている事から考えると、それに、その商団の多くが、一美たちと同じ中堅商団だけではなく、大商団から中小の商団まで、多くの商団が、此国の経済を支えているのだから、彼らが一気にストライキを起こしてしまえばそれだけで、動きを封じられてしまう、と言う事に他ならない。
それゆえに、今から考えれば、見せしめと言う考え方が近いかもしれない。さすがに、この広州と言う場所を彼らは、潰そうと考えてはいなかった。
理由は潰してしまうと、上海と南方の貿易が成り立たなくなってしまう。それを恐れていたと言う事に他ならず、実は、一美達を潰す事もせずに、終わらせたかったのかもしれない。一美は、そこまで予想としていただろうか。答えは、難しいのかもしれない。
それに、一美達の台頭をよく思っていなかった商人もいたと考えられるのだから、気が気でないと言った部分がある。しかし、一美達は、一美達の台頭を良く思っていない勢力に対しては、情報戦で相手を翻弄すると言う事を得意としていたから、そこまでの混乱を意図するような事をしたとは、資料では記されていない。
つまり、一美達の台頭があるからと言って、彼らを潰す事はできないと言うのが、大波がかけてあげられる温情だったと指摘している学者もいる。ただ、そうだとすると、一美は、何のために捕縛されたのか。その問題が浮かび上がる。
それを、指摘しているのが一美と懇意にしていた学者に彼女自身が語った事に因ると、
「私自身が、こう言った事になったのか、あなたにも分からないかもしれませんが、私の街を守る為でした。それが間違いだったのかもしれません。ただ、今となっては、それが、私の視野を大きく広げたと確信しております。」
と述べている。これが、確かだと言うのは分かっているが、ただ、どこまで広がったのかについて語っていない為に、どう言った政策に生かされたのか、それは、明国の政治内容が納められている公式文書、「明書」の手を借りなければならない。
それによると、一美達の編纂した法令にその証拠が残っていた。一美が法典編纂に携わった原一光司法卿(○○卿と名称が変わるのは、6代皇帝順宗の時代になってからで、この当時は、まだ○○大輔と呼ばれている。この一光も司法の役職だが、建国当時は司法と言う名称ではなく、「刑」と呼ばれていた。)の功績は、5項目、総計160点に上っている。その一例を紹介すると、刑法では代表的なものとして、2点あり、民に対する拷問の完全撤廃、懲役刑の厳重罰に関する規定の見直し、行政法では、3点ほど有って、民衆に対する税率の見直し―主に、民衆に対する直接国税の引き下げと、商団および商人に対する運上金の平均化他―、強制労働の禁止、そのほか、児童・生徒(中学生以上から15歳までを含む)の強制肉体労働―主に、工事に関する雑用なども含めて―の禁止と企業に関する罰則がある。
1つ1つを説明するには、相当な時間がかかるが、これは一美が体験した事に裏打ちされており、彼女が経験する場面ごとに説明を加えていくので、その時まで、誠に申し訳ないがお待ち願いたい。
ただ、一美自身が、自分達の愛する土地、広州を守る為に、起こした行動だったのかもしれない。それこそ、一美達にとっては、いい社会勉強になったのかもしれない。

その頃、一美達の家臣たちは、どう言った考え方を持っていたのであろうか。ある資料によると、次のような事を言った人物がいた。
「ここ二月、三月の大波軍の動きがあやしいと聞きます。それなのに、一美さまは水面下で動いていなさる。一美さまは、何を待っていなさるのか。」
と、この発言をしていた人物は、雪広あやかと言う人物である。彼女自身は、商団がどう言う形で、成長を遂げていくのかを気にかけていた。実際の所、ネギ・スプリングフィールドが受け持つクラスの中では、彼女の頭脳がずば抜けて高く、自らの意思を常に持つ女性であると、資料には記されている。
続いて、その後に続く人物として、超鈴音、葉加瀬聡美、神楽坂明日菜、綾瀬夕英、佐々木まき絵となっていた。後、佐々木まき絵は、名前だけが変更され蒔絵となり、国土卿(大輔)を務め、葉加瀬聡美は工部卿(大輔)、綾瀬夕英は内府官房(後、内閣府)、超鈴音は商道候(大官)国土府、さらに、神楽坂明日菜は産生公、雪広あやかに至っては文学科と言う重要職を務めるが、この時は、まだ、注目される家臣ではなかった。
そのほかに、この雪広あやかが催した会合に、出ていた人物は他にもいる。例えば、一美がその不幸を嘆いて、採用を決めた彩と御影も含まれていた。この時、一美の行動が、後に理がある行動だったと言えば、ここにいた人物たちは、何を話し合っていたのであろうかと言う疑問が出てしまう。
つまり、ここに集まった者たちの共通した事は、2つあり、1つは、今後の一美の行動。2つは広州の今後そのものであった。

この会合では、何も決まらなかった。理由は、二つあった。一美自身が、此国、この地域を戦場として戦う事はしないし、戦火で燃え尽きる街を見ることはさせない事と、自分自身に非はなく、その上、防衛上で軍を発したのであって、自分達には何の得もないと言う事の二つである。それが、一美の行動原理であると共通した認識として持っていた事から発したものだった。
「はたして、これで私たちは、一美さまの行動を見ているのだろうか。」
と主催の彩かが発言した。確かに、決定した事項がないなら、無駄だったと見るのが正しい。しかし、
「はたして、それが正しいのかどうか。一美さまの真の考えが分からない以上。議論を重ねたとしても、結論は出てこないだろう。」
確かに事実だろう。さてどうすれば良いのか、家臣たちに答えは出ていなかった。

そう言った事が興っていた中で、一美は、霞の部屋にいた。ラフェリア、昭代、クリフ、優香、霞、幸と協議を重ねていた。しかし、結局どう行動するのか、一美以外は決めていなかった。
「それより、幸さんには、越南との国境での交渉業務に当たって頂きたいのです。その理由は、今の越南が不安定要素を多く抱えているからと言われております。それゆえ、越南の情報が、気がかりですので、情報収集をお願い致します。」
と一美は、幸に言い聞かせるように言った。昭代は、
「私は、広州に残れと言う事なのですか。」
一美は頷いた。
「あなたには、この土地を守って頂きたいだけでなく、弟の穂積も支えてほしいの。お願いしたい。」
とその理由を述べ、ラフェリアと、優香にも同様の答えを述べていた。一美と共に行動するのが、クリフと霞の2人であった。
この2人のうち、霞は情報を集め且つ、忍者の一種くのいちと言う立場を利用して、護衛にも回り。クリフは、一美の護衛として、側にいる事、それに、一美の護衛の中では、他の兵士よりも頭一つほど成長した人材だったからという面も強く、彼女自身は、そのような事を気にしていないが、一美はそんなクリフの姿を見ていたのである。
だから、一美の側にいるようにと促したのだ。それにクリフは、一美の心の中に変化があったのではないか、と察していた。
そう言う中で、護衛をしていた凛と茜は、クリフと霞が一美の元に加わった事で、紅巾軍の取り込みに移ったのではないか、と推測し始めた。少なくとも霞を護衛の一人に回した時点で、そう思えてならなかった。
それでも、此国を良い方向に持っていくには、宗教どころか、そんな違いも関係なしに、人材を集めていくのが筋のはずである。
それを、大波は怠っていると言うのかと、一美の脳裏にはよぎったのかもしれない。
と言う事は、こうも言える。彼らには、そもそも、中華族を甘く見ている節があった。それに因って起こした悲劇と言っても過言ではないが、もしそうだと言えるなら、大波の命運は、この時点で尽きていたのかもしれない。

そんな中で、1人考え事をしていたのが、ラフェリアの部下となっていた紀子である。紀子も一美の考えがどう作用するかを見つつ、相手の動向を読んでいた。
紀子の部屋には、穂積と麗がいる。そう、一美がいったいどう言った事をしていくのか、それをラフェリアから聞いたのである。
「一美さまに『残れ』と…仰られたのですか。」
驚きの表情で、紀子はラフェリアを見ていた。
「その通りで、私も驚いております。何故、一美さまはそこまでなされるのか、私には見当がつくのですが…。」
と言葉を濁した。本当の所は、分かっているのだが、言葉が見つからない。それに、紀子は気付いた。
「おそらくですが、一美様は、広州を守る為に、自らを生贄に差し出す。と言う事ではないでしょうか。」
と答えるが、ラフェリアには、一美がそれだけの理由で動くはずがないと言った考えがあった。
「おそらく、一美様は生贄になるだけでなく、多くの反乱を起こした民を如何にして救うか、それを考えているかもしれません。」
と考え方を述べる。もしそうだとしたら、一美は水面下で、一美達と同じ心境を抱えているもの達を、取り込むと言う事をやろうとしているのではないか、常に先を見通しているのではないか。
そうなら、
「大波にとっても、彼女を捕らえた事は功績として認められる上、それが中華人の手に捕らえられたとしたら、『大波』にとっては、自分達に逆らえる者はいないと、豪語したのと同じ事です。」
と紀子が答えた。
「そう、それを一美様は狙っているとするなら…。」
そこからの思考が、2人の頭の中で素早く回転し始めた。つまり、一美が考えていた事は、此国―大波の民に、決起を促すだけでなく、豪族なども離反させてしまおうと言う、大胆なものだった。
だから、この計画は、ラフェリアとの相談の上で、決めた事で、一美にとってみれば、ラフェリアを残すことは、その先にある戦乱を、この広州に地盤を持つ「北田商団」がどう乗り越えさせるのか、そして、乗り越えさせた後に、どう言ったビジョンを、発信させるのかでラフェリアの役割が重要だと感じ取ったからかもしれない。
しかし、ラフェリアは、その事について、
「確かに、一美様の気持ちは分かります。しかし、…」
と口を濁した。今後、ラフェリアと言う主柱を、一美が兼人か、穂積に託すことで、一美自身に危険が迫るのではないか。と言う危惧が、ラフェリアの心に芽生えていた。
「一美様自身は、どうやって、出向いた後の事態を乗り切っていくのか…、そこが心配です。」
と漏らした。それに対して、紀子は、
「大丈夫です。あの子の事については、強い心を持っております。軍師殿が心配している事ぐらい耐える事は出来ますよ。それだけではなく、あの子は、龍を持っているのですよ。だから、一美様はきっと乗り越えますよ。」
と答えていた。確かに、一美が中学生になってから3年間、一美に助けられた紀子は、一美の力強さを、誰よりも分かっていた。力強さだけではなく、優しさや、思いやりも持っている子供だと、理解していた。
ただ、2人には、それに近しい軍師がいないと言う事を見抜いていた。一美と同じ目線に立てるラフェリアと紀子がいない以上、一美は、1人で全ての状況を判断すると言う、過酷な経験を1年ほど味わう事になってしまうのであった。

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